脱炭素化に向けた投資計画とともに、炭素に値付けする「カーボンプライシング(CP)」の議論を政府が始めた。企業間で二酸化炭素(CO2)排出量の過不足分を取引する「排出量取引」や、排出量に応じて課税する「炭素税」などの可能性を探る。政府としては段階的な導入で産業界などからの理解を得たい考えだが、特に炭素税の導入には反対論も根強く、議論は曲折も予想される。
官邸でこのほど開催した「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」でCPの導入構想を示した。経済活動への影響を考慮し、CPによる負担は段階的に引き上げる。現在、政府が試験運用している「GXリーグ」は、一部の企業による自主的な排出削減の枠組みにとどまるが、2026年度にも制度化することを念頭に議論を進める。31年度以降は、排出削減量の義務化など、さらに踏み込んだ枠組みも検討する。
GX実行会議で岸田文雄首相は、排出量取引と炭素税を組み合わせた制度設計を行うよう指示した。ただ、排出量を基準に課税する炭素税は業種によって税負担が偏る可能性がある。鉄鋼や化学などエネルギー消費型産業はもちろん、自動車産業にも影響が大きい。日本と同じように自動車産業を抱えるドイツも炭素税の導入には後ろ向きだ。
日本経済団体連合会や経済同友会は、企業の成長を阻がいするとし、とりわけ炭素税には否定的な立場だ。課税分が消費者に転嫁されれば消費も一段と冷え込みかねない。
ただ、脱炭素化の取り組みは個々の企業だけでは限界があることも確かだ。CPで集めた資金は、政府が民間のGX投資を促すために発行する新国債の償還財源に充てられ、産業全体のグリーン化を促す役割もある。環境保全と経済活動に目配りした制度設計が求められそうだ。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)10月28日号より