日本政府は、米国の「インフレ抑制法」で示された電気自動車(EV)の優遇策に対し、日本のメーカーが製造した車両も対象に加えるよう米政府に意見書で申し入れた。北米で組み立てられたEVなどに優遇措置を限る同法では日本メーカーが不利になり、経済安全保障などで歩調を合わせるはずの日米連携に響きかねないためだ。電動化をめぐる各国の覇権争いが熱を帯びつつある。
気候変動対策などに3700億㌦(約54兆円)を投じる同法では、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)に対する優遇措置である税額控除も見直された。EV、PHVの購入に対し、1台当たり最大7500㌦(約110万円)を控除する。ただし、対象は北米地域で組み立てられた完成車のみ。今年の12月31日以降に製造された車両が対象となるため、現時点で控除対象となる日本車は、テネシー州で生産する日産自動車「リーフ」のみとみられる。
米国は電池材料に関しても規制を厳格化した。使用するレアメタル(希少金属)の調達、加工先として北米あるいは自由貿易協定(FTA)を結んだ国からの比率が4割以上であることを控除の条件とした。この比率は年々引き上げ、27年以降には8割になる見通し。電池材料であるコバルトや黒鉛、ニッケルの産出で一定のシェアを持つ中国やロシアを排除する狙いが透ける。
完成車生産やEVのサプライチェーン(供給網)を自国内に囲い込もうとする米国に対し、日本政府は、日本企業の進出で米国内に一定の雇用や投資が生まれていることを背景に、日本のメーカーが製造するEVも同様に税額控除を受けられるよう求めた。同法が見直しのないまま施行されれば、中国など地政学リスクを織り込みつつある日本メーカーの事業戦略が再修正を迫られる可能性がある。日本政府としては、日米連携に水を差さないよう、米政府に働きかけていく考えだ。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)11月8日号より