電気自動車(EV)などで、日本の自動車市場に新規参入する企業が、アフターサービス体制の構築を着々と進めている。海外メーカー大手では韓国・現代自動車が協力整備工場網を構築しているほか、中国・比亜迪(BYD)は整備も手掛ける正規ディーラーネットワークの構築を計画している。他方、新興メーカーは既存のネットワークなどに活路を見出している。アフターサービスは、車両の安全に直結する。いずれの方法を取ったとしても本格的な販売拡大に対応できる整備や点検の体制整備が求められる。
日本市場に再参入し、5月にEVと燃料電池車(FCV)の販売を開始した現代自。日本法人のヒョンデモビリティジャパン(趙源祥社長、横浜市西区)は、直営の整備拠点に加えて、全国の協力整備工場を来年中に40拠点まで増やす。同社はロードサービス(RS)や板金塗装も手がける事業者と率先して関係を構築しており、協力工場網でアフターサービスに対応する。EVに特化した整備士の認定制度も独自に設ける計画で、車両に不具合や事故が起きた時にはEVの知識に長けた協力工場を車両輸送や整備、修理に充てていく考えだ。
一方、新規参入し、来年1月からEVの販売を始めるBYDは、2025年末までに100店舗以上の正規販売ネットワークを構築し、そこでアフターサービスも手掛ける計画だ。整備の技術トレーニングでは明治産業(竹内眞哉社長、東京都港区)と協業し、同社のトレーニングセンターで正規ディーラーの整備士向けに研修を行う。同じ自動車大手でも、ヒョンデジャパンと対応が分かれた格好だ。
自動車のアフターサービスには、整備マニュアルや整備工場網、補修部品の商流の確保などが求められる。既存の自動車メーカーやインポーターでは長い年月をかけて構築しており、新規参入企業では一朝一夕でそろえることは難しい。こうした中で、整備網を持たない新興EVメーカーのアフターサービスに対し、日本自動車車体補修協会(JARWA、吉野一代表理事)が支援に乗り出している。
商用EVを販売しているHW ELECTRO(HWエレクトロ、蕭偉城社長、東京都江東区)と、EVを手掛けるKYBURZ JAPAN(キーバスジャパン、古角将夫代表取締役、神奈川県鎌倉市)が、今月までにJARWAに正会員として加盟した。JARWAは各社へのヒアリングを通じ明らかになったアフターサービス体制で不足するリソースを、会員ネットワークなどを活用して支援を進める計画。これにより、新興メーカーが国内の新車市場で、事業を継続しやすい体制づくりを後押しする。
今夏に新興メーカーのEVを導入した都内の運送会社代表は「同じ自動車ならEVでも、どこの整備工場でも対応してもらえると思っていた」と話す。ただ、整備工場も整備マニュアルや補修部品の仕入れ先などが明らかになっていなければ、対応が難しくなる。アフターサービスに対するユーザーの不安は、車両の安全確保への疑念や顧客満足(CS)の低下につながりかねず、新規参入メーカーにとって、アフターサービス体制の充実は避けては通れない重要な課題となっている。
(村上 貴規)
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)11月12日号より