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自動車業界トピックス

新会社「ラピダス」始動、次世代半導体の国産化へ一歩

10年近い遅れを得意のものづくりで挽回

次世代半導体の国産化に向けた新会社「Rapidus(ラピダス)」が始動した。トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループなど、自動車関連事業を手がける企業が出資を決めたのは、将来の普及が見込まれる高度な自動運転技術の開発競争で遅れをとらないためだ。2年以上、半導体不足で思うように自動車を生産できない状況に陥ったこともあり、自動車産業にとって半導体の重要性とともに〝日の丸半導体〟の脆弱(ぜいじゃく)さが浮き彫りとなった。ラピダスの小池淳義社長は「日本は10年近く遅れた。取り戻すのに時間はかかるが、得意のものづくりで世界に貢献する最後のチャンスとなる」と意気込む。

ラピダスの小池社長(写真左)と東会長

ラピダスは、先端半導体の製造技術の開発や、環境に配慮した省エネルギー半導体の研究開発、半導体産業の人材を育成するため、日立製作所出身の小池氏と、東京エレクトロンの元社長でラピダスの会長に就いた東哲郎氏、個人株主12人が今年8月に設立した。トヨタなど半導体を使用する企業8社も出資を決めている。

今回、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から先端半導体製造技術などの委託先にラピダスが採択された。同社は700億円の補助金も活用し、線幅が2㌨㍍世代のロジック半導体の集積化技術と、製造リードタイムを短縮する技術を開発する。米国IBMなどとも連携し、2022年度中に2㌨㍍世代製造の要素技術を確立し、パイロットラインを初期設計する。27年をめどに2㌨㍍半導体の受託製造事業を国内で実現することを目指す。

先端半導体は自動運転レベル5向けで必要になりそう

現在の車載用ロジック半導体は、28㌨㍍、40㌨㍍、65㌨㍍といった古い世代の「レガシー半導体」が中心だ。将来のスマートフォンやデータセンター向けが主力とみられる2㌨㍍世代が自動車向けに必要となるかは現時点では見通せない。

それでもトヨタやデンソー、ソニー、自動運転サービスを模索しているソフトバンクなど、自動車関連事業を手がける半導体ユーザー企業がラピダスに出資するのは、30年代の自動運転「レベル5」(完全自動運転)向けで必要になるとみるからだ。ラピダスの小池社長も「優れた半導体によって付加価値のある商品を(出資する)顧客とともに考える。2㌨㍍世代で新しいモノを顧客とともに創造していく」と話す。

2㌨㍍世代の半導体は、台湾のTSMCや米国のインテル、韓国のサムスンなどが研究開発で先行する。かつて世界シェアトップを誇り、開発をリードしていた日の丸半導体は、約4年サイクルで市況が乱高下する「シリコンサイクル」についていけずに脱落した。

ルネサスエレクトロニクスが12年に業績不振に陥った際には、官民ファンドの産業革新機構(当時)とともに、車載半導体の安定調達体制を維持するため、トヨタや日産自動車、ケーヒン、デンソーなどが出資して再建を支援した。しかし、競争の軸は線幅を微細化した半導体の製造技術で、ルネサスはこの分野で進んでいるとは言えない。

車載半導体が半導体市場全体に占めるシェアは10%程度とされる。TSMCなどの海外の受託製造メーカーは、微細な先端半導体に投資を集中してきたこともあり、車載半導体の不足は現在も解消されていない。しかも、高度な自動運転技術は、先端半導体が競争力のカギを握る。日本の自動車関連企業は、政府の支援を受けるラピダスが、自動車業界のニーズに対応した高度な自動運転向け先端半導体を量産することに期待する。

小池社長は「遅れを取り戻すのは簡単ではない」と認める一方で、製造リードタイムを短縮する技術を早期に確立し、TSMCなどが計画する2㌨㍍世代の「25年の実用化に負けずに生産できる技術を確立したい。先端半導体(ビジネス)をまわしていく」と語る。

ラピダスの社名は「迅速に」というラテン語に由来する。先端半導体を迅速に量産する技術を確立できるかが、日本の自動車メーカーの競争力をも左右しそうだ。

(編集委員 野元政宏)

※日刊自動車新聞2022年(令和4年)11月15日号より