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自動車業界トピックス

一般会計から安全特会への繰り戻し、残り6000億円

ほど遠い全額返還

「走行距離課税」で新たな税金の徴収を目論む財務省が、自動車ユーザーから借りた約6千億円の返済を渋っている。現在の返済額は年間で50億円程度に過ぎず、完済には120年もかかる計算だ。このあおりで存続が危ぶまれていた交通事故被害者の支援事業は、関連法の改正でひと息ついたが、その原資は自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の保険料に上乗せされる形で自動車ユーザーが負担する。自動車損害賠償保障制度を考える会の福田弥夫座長(日本大学危機管理学部長)は「われわれにとって約6千億円の全額返還は『一丁目一番地』だ」と早期返済を求めている。

「明るい希望を持って下さるような制度にしていかなくてはならない」。今月上旬、自動車損害賠償保障制度を考える会のメンバーらと面会した斉藤鉄夫国土交通相は、在宅で療養生活を送る重度後遺障害者や、その家族にとって深刻な問題である「介護者なき後」の問題についてこう語った。

 日本の自賠責保険制度は「強制保険」と呼ばれるように加入が義務付けられる半面、保険料による「自動車安全特別会計」の運用益が重度後遺障害者の介護料などに充てられるなど、世界的にも珍しいセーフティーネットとして機能している。

ただ、財務省は赤字国債の発行を回避しようと、1994年度から2年にわたり、約1兆円の運用益を一般会計に流用した。当時は2000年度までに返済するはずだったが、ずるずると先延ばしされ、利子相当額を含む5952億円が未返済のままだ。

昨年12月に国交相と財務相が新たな大臣間合意を交わし、22年度の返済額(54億円)を最低基準に、23年度から5年間継続して返済することを申し合わせたが、完済にはほど遠い。この結果、事故被害者の救済にまわる積立金は発足当初の約9千億円から足元では1500億円を切った。

自賠制度を考える会の福田座長(右から3人目)と斉藤国交相(同4人目)

追い込まれた政府は、約20年ぶりに自動車損害賠償保障法(自賠法)を今年6月に改正し、自動車事故対策事業を恒久化する一方で、自動車安全特別会計に2つあった勘定を統合。さらにひき逃げや無保険車による事故被害者の保障に充てる「賦課金」を16円(自家用普通乗用車1年分の場合)から最大150円まで上げられるようにした。言い換えれば、事故被害者の救済に回る資金を自動車ユーザーから新たに徴収できるようにしたわけだ。

斉藤国交相は「自動車ユーザーの皆さまに一定の負担をいただくことが、交通事故で苦しむ被害者・家族が未来への展望を持つことにつながることを、これまでも国会などさまざまな場で国民の皆さまに説明させていただいた」と語るが、自動車ユーザーが納得しているかどうか。

自動車ユーザーの積立金を流用して返済を渋る財務省は、一方で「電動化で燃料税収が減る」として、新たな税金を自動車ユーザーから徴収するよう画策する。自動車業界は「局所的な『決め打ち』や『先行増税』ではなく、ユーザーが納得する国民的議論を行うべきだ」(日本自動車工業会の永塚誠一副会長)と徹底抗戦の構えだ。

(平野 淳)

※日刊自動車新聞2022年(令和4年)11月26日号より