商用車の脱炭素化で「本命」ともされる燃料電池(FC)トラックの市場投入が本格化する。トヨタ自動車など4社が出資する商用車連合、コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT、中嶋裕樹社長、東京都文京区)は、FC小型トラックの生産を1月に始めた。2029年度末までに250台を導入する。FC大型トラックも25年前後に生産開始する計画だ。海外ではホンダが東風汽車と共同でFCトラックの実証を1月に始めた。燃料電池車(FCV)は乗用車で先行するが販売は伸び悩む。各社は商用車向けに活路を見出す。
小型FCトラックはトヨタ、日野自動車、いすゞが共同開発し、生産はいすゞが担当する。車両には特定の自動車メーカーではなく「CJPT」のバッジをつける。大型FCトラックはトヨタと日野の共同開発で、生産は日野が担う。29年度末までに50台を生産する計画だ。
CJPTのFCトラックは国内にとどまらず、タイではチャロン・ポカパン(CP)グループと組み、同グループが展開するコンビニエンスストアの配送トラックに使う計画だ。燃料となる水素は、同グループが手がける家畜事業の糞尿から生まれるバイオガスを用いる。CJPTの中嶋社長は「商用車は顧客目線が重要だ」と語り、〝売り切り〟と一線を画す事業モデルでFCトラックの普及に挑む。
CJPTのFCトラックは、トヨタの乗用FCV「ミライ」で培ったFC技術を生かしている。20年12月に全面改良した2代目は、生産能力を初代の10倍(年間3万台)にまで引き上げた。ただ、ミライの販売台数は前年比65.9%減の831台(22年)と振るわない。
一方、FCVは電気自動車(EV)より航続距離を延ばすことが容易で、燃料の充てん時間が短いことから商用車に向く。商用FCの普及が進めば水素需要が増え、乗用車やFCシステムの外販につながる好循環も期待できる。
ホンダは、乗用FCV「クラリティフューエルセル」の生産を21年9月に終了したが、ゼネラル・モーターズ(GM)と第2世代のFCシステムの開発を進める。同システムは、クラリティに搭載した第1世代と比べて耐久性は2倍、コストは3分の1を目指しており、中国では、このシステムを搭載したFCトラックを導入する。ホンダの青山真二執行役専務は「乗用車の世界はEVが中心になることは間違いない。ただ中大型トラックやバス、あるいは乗用車でも大型SUVやピックアップはFCが適している」と期待をかける。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)3月2日号より