総務省消防庁は、車載用リチウムイオン電池の保管規制を緩和する。欧米と同等の消火設備など一定要件を満たせば「床面積1千平方㍍以下」といった屋内倉庫の制限を撤廃したり、一定数を一般の倉庫で保管できるようにする。今年内に政省令などを改正する意向だ。車載電池の生産や保管で欧米と条件をそろえ、国際競争力で劣後しないようにする。
リチウムイオン電池に使われる電解液は可燃性のため、消防法で石油類と同等の危険物に該当する。同一カ所で指定数量以上の危険物を生産・保管する建物を「危険物施設」といい、市町村などの許可を受け、建物も一定の安全性を満たす必要がある。
リチウムイオン電池を屋内で保管する場合、電解液の総量が1千㍑を超えると規制対象となり、倉庫は原則として「平屋建て」「軒高6㍍未満」「床面積1千平方㍍以下」などの基準を満たす必要がある。倉庫としては小規模で、電気自動車(EV)の量産や普及を妨げかねないと、日本自動車工業会や物流企業などから規制緩和を求める声が出ていた。
総務省はまず、リチウムイオン電池火災の消火実験を実施した。その結果、欧米で多く採用されている消火設備や保管方法と同等以上であれば、屋内倉庫の規制を撤廃しても安全が保てると判断した。例えば、消火設備として倉庫天井にスプリンクラーを設置する場合、米国では1基当たり毎分560㍑の放水能力が必要だ。日本で普及しているスプリンクラーは毎分80㍑にとどまる。総務省は規制緩和の条件として、米国などと同等の消火設備能力を求める。
このほか、長時間の火災に耐えられるよう倉庫を耐火構造にしたり、スプリンクラーは開放型のヘッドとし、自動火災報知設備の感知器と連動して作動させることも求める。電池を載せるパレットも燃えやすい樹脂製の利用を禁じる。
さらに、国連協定規則で定めた安全性能を満たすことなどを条件に、複数の車載用リチウムイオン電池を一般倉庫でも保管できるようにする。具体的には「特定防火設備」と同等の耐火性(約1時間の火災でも燃えない)を持つシリカ繊維製の布などで電池を覆って保管すれば、対象電池の電解液を指定数量には含めないことにする。
例えば、1個100㍑の電解液を含む車載用リチウムイオン電池を11個保管すれば、指定数量の1千㍑を超えて危険物施設の認可が要る。ただ、このうち2個をシリカ繊維製布などで覆えば、電解液の総量が900㍑と見なされ、認可が不要になる。
総務省としては、安全性を担保した上で、EVの普及に必要な規制緩和を今後も検討していく考えだ。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)3月3日号より