【タイ・ラヨーン県=藤原稔里】水素モビリティの活用を見据えた実証がタイで進んでいる。昨年11月には、東南アジア諸国連合(ASEAN)初となる水素ステーション(ST)をタイ石油公社(PTT)やトヨタ自動車などがチョンブリ県に新設した。トヨタが提供した燃料電池車(FCV)「ミライ」が観光用として走る。タイを皮切りに水素活用がASEAN全域へ広がることが期待される。
トヨタの実証では、ウタパオ空港からパタヤ市内までを観光の移動手段として「ミライ」のリムジンサービスを提供する。1~2年間実証を行った後、バスや大型トラックも導入し、水素STの利便性や水素モビリティの実用性などを検証する。
水素モビリティでの実証に加え、「グリーン水素」の実証も視野に入れる。PTTでは5年以内にも再生可能エネルギーを活用したグリーン水素を導入する方針。東部経済回廊(EEC)の担当者は「実用化の前段階として実証実験の検討を進めていく」と語った。
タイでは現在、水素事業が注目されている。同国最大財閥のチャロン・ポカパン(CP)グループがトヨタと組んで実証を始めるからだ。これまで電気自動車(EV)関連産業で日系や中国企業などの誘致を進めてきたが、環境対応車をEVだけに絞らずFCVなどにも広げることで、タイ経済の活性化や〝アジアのデトロイト〟としての地位の堅持、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)につなげる狙いがある。
CPは、傘下に持つ養鶏場の糞尿由来のバイオガスを活用して水素を製造し、同じくCPグループが展開するコンビニエンスストアの配送トラックをFCVにする取り組みを進めている。
政府関連では、タイ投資委員会(BOI)が1月からの新たな投資奨励策にFCVや関連部品の製造を追加したほか、ラヨーン県マッタプット工業団地内に建設中のスマート工業団地では、入居企業のターゲットとして水素関連を掲げる。自動運転やバッテリー関連などさまざまな産業の先端開発・研究などに取り組む「東部経済開発回廊イノベーション特区(EECi)」においての水素はまだ研究段階だが「連携できるパートナーをリサーチしている」(EECi担当者)と前向きだ。
EVに加え、水素を活用した車両を展開することで、タイとして運輸部門のカーボンニュートラル化をASEANで主導していきたい考えだ。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)3月11日号より