内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)が都内で開いた「自動運転の成果とその先へ」シンポジウムで、自動運転「レベル4」(限定地域での条件付き自動運転)の社会実装を目指す地方自治体の取り組みが紹介された。過疎地では、ドライバー不足などによる公共交通機関の不足で、高齢者や観光客の移動手段確保などの問題を抱えている。この解決手段として自動運転レベル4を実現して「地域の足」として持続的に活用するには、経済性の確立や社会的な受容性が欠かせない。実証実験を通じて先進技術による課題解決が期待されるものの、実現に向けたハードルも見え始めた。
今年4月の改正道路交通法の施行で、国内の公道で自動運転レベル4の走行が解禁される。政府は2025年までに全国40カ所以上でレベル4自動運転サービスの導入を目標に掲げており、23年度から各地域で実証実験などの動きが活発化する見通し。特定の地域では先行して導入に向けた取り組みを進めている自治体もあり、シンポジウムでは5つの先行事例が紹介された。
自治体が自動運転の実証実験の実施を決めた理由で最も多かったのは、電車やバスといった公共交通機関に代わる移動手段としての可能性を探るというものだ。茨城県境町は鉄道、バスといった公共交通機関がなく、買い物や通院するのに「90歳を超えても運転をしなくては生活できない状況」(同町の川上透課長)だ。課題解決に向けて5年間で2億円の財源を3年前に手当し、まず「レベル2」(高度な先進運転支援)相当で路線バスを運行する実証実験を実施した。当初は商店街の始発と終点をつなぐのみだったが、住民の協力を得て病院やスーパー、学習塾といったニーズの高いエリアにバス停を増やしていった。マイカーに代わる移動手段として着々と利用人数を増やしてきており、7億円近い経済効果を見込んでいる。
長野県塩尻市では、民間バス会社が撤退したのを受けて「レベル3」(システムの要請に応じて手動運転)で運行する車両を導入した。補助金の支給などで「バス路線を維持することも考えたが、年間のコストが1億円かかることが判明したことから、新しいモビリティに切り替えることを決めた」(同市の太田幸一室長)という。
栃木県や佐渡市(新潟県)は、住民だけでなく観光客向けの移動手段としても自動運転車を活用することを目指している。栃木県は温泉郷で自動運転レベル2の車両を導入することでマイカーの量を減らし、観光渋滞の緩和も図る。佐渡市は住民と観光客の双方の目線で、自動運転システムを搭載した車両を使った運行や試乗会などを行っている。
都市部で自動運転車の活用を模索している自治体もある。愛知県は名古屋駅周辺や中部国際空港など、モビリティや歩行者が混在する交通量の多いエリアで、自動運転レベル2で車両を運行した。移動だけでなく「会議室としての貸し出しや、子ども向け工作教室を開くなど、車内空間のあり方も検討している」(愛知県経済産業局の中野秀紀室長補佐)。自動運転車による運行に付加価値を加えて、採算性を確保することを視野に入れる。
シンポジウムでは、これら自動運転車の実証によって社会実装する上での障害を感じた自治体の声も目立った。特にネックになるのは高いコストだ。塩尻市の実証では「1週間で2千万円近くかかる」(太田室長)。政府の補助金が切れた後も運行を継続できるように、運行管理業務を住民に委託できるよう人材育成を始めたという。愛知県の中野室長補佐は「一番苦労しているのは収益モデルをどう確立するか。例えば車内にデジタルコンテンツを運用することや、広告(を掲出する企業)のニーズが高そうなルートを選定するなど」の採算確保を検討する。
また、自動運転車が公道を走行することに対する社会的な受容性を醸成することも求められると感じた自治体も多い。栃木県が実施した住民向けに実施したアンケートでは、「自動運転車の乗車に不安を感じる」と回答した人は4割以上いたのが、実際に自動運転バスに試乗した後、1割ほどに減少したという。栃木県の髙山誠課長は「地域の移動手段として受け入れてもらうには、試乗機会を作って安全性を実感してもらうことが重要」と話す。
採算性確保や社会的な受容性など、自動運転レベル4でのバス運行の実現には課題がある。ただ、高度な自動運転の実用化は高齢化社会やドライバー不足などの社会問題解決につながるだけに、実用化への期待は高く、今後も技術開発と実証実験による検証が進む。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)3月22日号より