国土交通省が次世代のITS(高度道路交通システム)について議論する検討会を設置した。「CASE」(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の進展や人工知能(AI)など革新的技術の開発・普及を踏まえ、次世代ITSのあり方を産学官で検討する。新技術や新サービスの付加価値を通じ、従来の交通課題の解決に加え、社会的課題の解決にもITSの役割を広げたい考えだ。まずは年末をめどに中間取りまとめを行う予定としている。
次世代ITSについては、革新的技術の活用や社会経済全体からのアプローチにより、交通課題の解決を超え、世界でも役立つような新たな価値創造を目指す。このための施策・サービスを道路行政視点、民間視点の双方から産学官の議論を通じて具体化し、実現に必要なシステムが備えるべき機能を整理し、コンセプトとしてまとめる。
ITSは、渋滞や事故、環境悪化といった道路交通問題を解決するため、情報通信技術を用いて人・道路・車両の一体的システムで構築する。国交省は、ETC(電子料金収受システム)を導入し、ビッグデータを用いた料金施策や運行管理支援高度化を図ることで渋滞・事故の低減につなげるなど、ITSの社会実装に取り組んできた。最近は、CASEをはじめAIやデジタルトランスフォーメーション(DX)などの革新的技術の開発・普及が進んでいる。社会経済活動が成熟・複雑化する中、ITSの取り組みもターゲットを拡大し、アプローチ・手法の再設定を考える時期に来ているとみている。
次世代ITSを検討する上では、革新的技術の開発・普及や社会経済活動の成熟・複雑化に伴い、革新的な技術を活用した社会経済全体からのアプローチの採用、交通課題の解決を超えた新たな価値創造のための施策・サービスの具体化を図る。これを踏まえたターゲット設定や実現に向けたアプローチの仕方、さらには実現を目指すサービスの設定、これまでのITSにおける課題や最新の技術動向などからのシステム開発といった留意点に目を向ける。ITSは、情報通信技術を活用した人・道路・車両の一体システムとして、 渋滞、交通事故、環境悪化などの道路交通問題に取り組んできた。1999年に当時の関係省庁が連携し、官民連携でカーナビゲーションやETC、安全運転支援、公共交通運行管理などの分野からなるITSシステムコンセプトを構築している。
1980年代から徐々に普及し始めたカーナビは、90年にGPS(全地球測位システム)が搭載され、自車位置精度を向上。その後、96年にはVICS(道路交通情報通信システム)と呼ばれるサービスにより道路の混雑状況が車内で把握できるようになった。また、道路技術5カ年計画(93年6月建設省道路局策定)による有料道路の料金所渋滞の解消やキャッシュレス化による利便性向上を目指したETCが、官民共同研究や実証実験を経て2001年春から一般運用を開始。11年にはITSスポットサービスで、これまでのカーナビ、ETCなどバラバラの端末で行ってきた各種サービスをオールインワンのシステムで実現した。16年春にはETC2.0の本格導入が開始され、料金収受の自動化に加えてリアルタイムの渋滞情報を基にした迂回ルート通知や利便性の高い多彩な有料道路利用、情報提供などを可能にしている。
ETC2.0は、車載器が「走行履歴」「挙動履歴」を記録し、路側機との通信により国がプローブデータを収集。蓄積されたビッグデータを統計的に処理し、渋滞・交通安全対策、運行管理支援といったサービスなどに活用している。プローブ情報を活用したサービス展開が広がりを見せる一方で、精度、鮮度、信頼性などの観点で課題もあり、サービス拡大にはデータの収集・解析などで改善も必要だ。
次世代ITSの論点としては、ソフトウエア化や車両との一体化、機能拡充・更新の可能化、ETC決済手段の多様化など、幅広い車両やニーズに対応した多様な車載器について挙げている。加えて、目的に応じたプローブデータの収集や車両内外のデータ連携・活用環境の構築といったあらゆる主体が活用しやすいデータ基盤、さらには目的に応じた通信方式やセンサー、処理機能の付加といった新たな通信システムに対応した路側機なども掲げる。
これらを踏まえ、次世代ITSのターゲットや手法を改めて設定するため、渋滞・事故・環境といった交通課題の解決から社会経済活動への貢献にターゲットを拡大し、交通課題を解決に導く、社会・生活・産業の相互作用を促した「新たな価値の創造」などを想定する。さらに、道路交通の全体最適化につながる高度なデータ連携やコネクテッド機能を介した個車レベルの交通マネジメントなどによる革新的な技術を活用した課題解決手法の設定もターゲットとして想定している。自動運転時代のITSに求められるサービスや必要なデータも官民双方の視点から具体化し、その上で必要なデータの収集・生成・活用に向けてシステムが備えるべき機能を整理。加えて、道路管理システムや車両の開発・普及状況を踏まえた次世代ITSで実現を目指すサービスを設定する。
こうした次世代ITS開発では、次世代ITSで実現を目指すサービスを、アプリケーションやデータ、通信などの観点から検討し、車内外の共通基盤・路側機が備えるべき機能を整理(アーキテクチャーの検討)といったシステムデザインを検討する。また、普及率の向上には、次世代ITSによる効果の最大化と交通全体における対応車両の普及がカギとなるため、管理者やメーカーなどによらずデータを一体的に利用できる仕組みづくりやユーザーがメリットを享受できる魅力的なサービスづくりも必要だ。
自動運転車は、コネクテッド機能により走行に必要な情報を収集・提供することで走行することが可能である。一方で、ドライバーが運転する車両とのコミュニケーション、ネゴシエーションは課題だ。 自動運転車の普及には相当の期間を要することが想定されるが、コネクテッド機能を有しないドライバー車への後付け車載器などによりドライバー車と自動運転システムのコミュニケーションを可能にし、自動運転車に優しい走行環境を創出するなど非コネクテッド車への対応などについても留意する。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)4月3日号より