先進7カ国による気候・エネルギー・環境大臣会合(G7札幌)では、電気自動車(EV)にとどまらない多様な「選択肢」で自動車の脱炭素化に臨む方針が掲げられた。ただ、この方針は2035年頃までの指標で、欧州連合(EU)がガソリン車販売を禁じる35年以降の方針は不透明なままだ。EV導入に関する欧米の圧力が強まる中、岸田文雄首相も参加するG7広島サミットでどのような議論が交わされるか注目だ。
G7札幌の成果文書では、35年までに保有車両から排出される二酸化炭素(CO2)をG7全体で2000年比で半減させる必要性に触れた。日本が提案したもので、今は目標化していないが、経済産業省は「G7の中で(この数字が)野心的か野心的でないかの議論があった」(自動車課)と話す。ただ、足元の削減量はG7全体で00年比5%程度に過ぎない。G7各国の保有台数合計は世界の3分の1を占めており、自動車全体の脱炭素化を進めるには欠かせない取り組みと言える。
この達成に向けては、EVに偏らない手法が合意された。CO2と水素から生成する合成燃料や、植物由来のバイオマス燃料といったカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)燃料の普及だ。EVが普及し始めたとは言え、世界を走る車両の大半はハイブリッド車(HV)も含めた内燃機関車。日本の平均車齢は約8.8年(自動車検査登録情報協会調べ)で、国によっては更に高齢化が進む。脱炭素の実効性を高めるには保有車両対策が重要だ。
合成燃料の実用化は、日本が強みとするHVが生き残る道でもある。昨年の成果文書では、バイオ燃料の可能性に言及したものの、合成燃料には触れなかった。今回の成果文書では、バイオ燃料、合成燃料ともに「技術開発を評価する」との文言が加えられており、経産省は「(G7札幌では)技術を決め打ちするのではなく、多様な選択肢を尊重する意向が強まった」(同)と解説する。
ただ、グローバルでのEV化の流れは強まっている。米国が今月、公表した新たなCO2排出規制もEVの普及を促す性格が強いとみられる。EUは合成燃料の使用を条件に35年以降も内燃機関車の走行を認める方向だが、EVが主軸であることに変わりはない。
今回まとめたG7の成果文書でも、35年頃までの中期的な方針にとどめている。一部の国で内燃機関車の規制が始まる30年代以降については触れておらず、G7としてどこまで足並みをそろえられるかは未知数だ。
来月に控える「G7広島サミット」は自動車を含め、「G7札幌での議論の具体化を進めていく」(西村康稔経済産業相)という性格を持つ。保有車両のCO2削減策やZEV(ゼロエミッションビークル)の普及に向けた目標などについて議論が交わされそうだ。G7札幌で「多様性」を認めさせた議長国の日本がどこまでイニシアチブを握れるか注目される。
(村田 浩子)
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)4月18日号より