ボストンコンサルティンググループは、自動車部品サプライヤーが取るべき経営方針をまとめたレポート「CASE時代を生き抜く自動車部品事業の舵取り」をまとめた。レポートでは電気自動車(EV)や自動運転関連市場の拡大、さらに原燃料価格の高騰や地政学リスクを踏まえて事業変革の重要性を指摘した。成長分野への投資余力を確保するため、既存事業の収益改善や縮小・撤退を含めた改革を断行する必要があるとも強調した。
レポートではまず、自動車部品サプライヤーの事業環境について▽CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)による自動車の進化▽自動車メーカーによる発注量の変動やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)への対応▽原材料やエネルギー価格の高騰、地政学リスクなどの不安定な事業環境―の大きく3点が複合的に収益を圧迫していると指摘する。
また、2035年には新車販売台数の6割がEVになり、保有台数に占めるコネクテッドカー比率も9割を占めると予想する。こうしたEVや自動運転関連部品、ソフトウエアといった領域は19年から380億㌦(約5兆円)増加する一方、既存の内燃機関部品やシャシー部品といった領域は60億㌦(約8千億円)減少すると見通す。サプライヤーは待ったなしでポートフォリオの改革に取り組む必要がある。
レポートは、サプライヤーが手がける製品について▽EVや先進運転支援システム(ADAS)といった売上伸長が見込める「①ブースター部品」▽環境変化に左右されない「②キャリーオーバー部品」▽内燃機関向けなど縮小が見込まれる「③レガシー部品」の3つに分類。①への積極的投資と②の収益性改善、③は撤退を含めた構造改革を進めるよう提唱している。
こうした動きは実際に出始めている。三菱電機は自動車機器事業を1年以内に分社化し、EVやADAS部品を協業先と伸ばす一方、成長が見込めないカーナビなどからは撤退も視野に入れている。
日本のサプライヤーの特徴は、事業構成におけるレガシー部品の割合が高いことだという。米国はブースター部品が約3割を占めるのに対し、日本は16%にとどまる。中長期的には業績の悪化が避けられず、同社の富永和利マネージング・ディレクター&シニア・パートナーは業態転換の重要性を指摘する。
転換に成功した事例の1つに、コンチネンタルのパワートレイン部門が分社化したヴィテスコ・テクノロジーズがある。同社は21年の新規上場(IPO)の前後に、工場閉鎖や5千人規模の人員整理、電動化に向けた従業員のリスキリング(学び直し)などを進めるとともに、半導体メーカーとの協業やEV向けの熱管理ソリューションの開発などに取り組んだ。現在は、30年をめどに売り上げの7割を電動化ビジネスで稼ぐ目標を掲げている。
こうした事例から、レポートでは、サプライヤーの企業改革は長期的展望などを策定した上で▽レガシー部品の収益改善と事業の選別▽ブースター部品への投資や協業▽事業ガバナンス(企業統治)や従業員のリスキリング等の体制づくり―の3ステップでの取り組むべきと指摘する。
トヨタ自動車出身で企業変革に詳しい富永氏は「ブースター部品があり、サプライヤーの未来は明るいと思っているが、売り上げが立つには7~8年かかる。その間を我慢するキャッシュフローをねん出するため、投資の仕方を変えないといけない。経営の勇気をもってほしい」と提言した。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)5月13日号より