トヨタ自動車とダイムラートラックが提携し、日野自動車と三菱ふそうトラック・バスの経営を統合することを決めた。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に向けた次世代技術の開発コストが膨らむ中、4社の協業でスケールメリットを生かす狙いだ。ただ、具体的な協業の内容は示されておらず、今回の提携が各社にどのように利するのかは見えない部分が多い。
提携の検討が始まったのは2022年後半だ。トヨタの佐藤恒治社長によると、ダイムラートラックから打診があったという。
ダイムラー側が今回の提携をトヨタに持ち掛けたのは、水素の技術を早期にものにするためにトヨタ陣営が持つ技術とボリュームを必要としたためだ。航続距離が必要な大型トラックは燃料電池に優位性がある。
ダイムラートラックは21年3月、ボルボトラックと燃料電池の合弁会社「セルセントリック」を設立し、生産準備を進めているが、電気や燃料電池、さらには水素エンジンまで同時に開発し、ビジネスモデルに乗せるためには、さらに規模の経済を広げる必要があると判断した。技術の面でも、燃料電池の量産ではトヨタに一日の長がある。ダイムラートラックのマーティン・ダウム最高経営責任者(CEO)は、「この統合はゼロエミッションに向けた決定打になる」と述べた。
一方、トヨタにとってもダイムラートラックからの提案は渡りに船だった。
トヨタはこれまで商用車ビジネスで難しい舵取りを強いられてきた。トヨタが日野を01年に子会社化したのも、当時、経営危機にあった同社の再建がきっかけだ。トヨタは調達部門出身の蛇川忠暉氏を社長に送り込むなどトラックの収益性を改善、赤字からの脱却を図った。ただ、豊田章男会長は「乗用車と商用車のシナジー効果は難しい」と何度も漏らしていた。日野も、電動化や自動運転技術についてフォルクスワーゲングループや中国・比亜迪(BYD)といったトヨタグループ以外に協業先を求めてきた。
そうした中、22年3月に日野のエンジン認証試験の不正が発覚した。主力車の出荷停止に追い込まれ、業績は3年連続で最終赤字。米国では賠償リスクを抱える中で、トヨタにとって「日野を支えるのは限界」(佐藤社長)になった。日野との資本関係の見直しも含めた提携先を模索する中、水素関連でトヨタと手を組みたかったダイムラートラックから声が掛かった。
一方でトヨタは商用車市場について、自社が持つ技術の〝売り込み先〟として有望視している。すでに実用化している燃料電池車(FCV)や、レース活動を通じて開発を加速している水素エンジン車は、電気自動車(EV)への置き換えが難しい大型トラックでの普及が期待される。乗用車では事業化が難しいとされるコネクテッドサービスについても、物流の課題解決に生かせば新たな収益を生み出すことができる。
こうした技術をより広く浸透させる枠組みが、21年4月に立ち上げたトヨタをはじめとした自動車メーカー4社で出資するコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT、中嶋裕樹社長、東京都文京区)だ。すでにいすゞ自動車が生産する「エルフ」をベースにトヨタの燃料電池システムや気体水素タンクを搭載した小型トラックのFCVを市場導入している。
三菱ふそうとの経営統合によって、日野はトヨタの連結子会社からは外れる一方、トヨタとダイムラートラックを含む4社連合の枠組みが新たに誕生することになる。トヨタにとっては日野との距離を離しつつ、FCVや水素エンジン車の技術の供給先が広がる「一挙両得」な協業にも見えるが、強みを持つ独自技術が流出するリスクもはらむ。
トヨタとダイムラートラックの思惑は複雑に交差するが、国内大型車メーカーの統合が進むこと自体は必然だったと言える。大型車4社の国内販売台数は12万8千台(22年度販売実績、自販連データ)。新車市場に占める比率は2.9%にすぎない。需要が少ないにも関わらず、4社もメーカーが存在するため、販売の過当競争が発生し、大型トラックでは「赤字で新車を売り、サービスで利益を稼ぐ」というビジネスモデルが根付いている。
ただ、そのビジネスモデルも限界は近い。市場は縮小傾向にあり、5年前に比べると約7万台減少。さらにEVやFCVで開発コストも膨らむ。国内市場と並ぶ主戦場の東南アジア市場も競争環境は厳しくなる一方だ。こうした中で、いすゞは21年4月にUDトラックスを子会社化。今回の統合で大型車メーカーが大きく2つの企業群にまとまることで生き残りに向けた道が開ける。
もっとも日野と三菱ふそうの統合計画を実現できるかどうかは、今後の関係当局の判断に委ねられる。22年度は不正で日野の販売台数が低下したものの、21年度の中・大型トラック市場に占める日野と三菱ふそうのシェアを合算すると約55%だった。両社はインドネシアでのシェアも高い。
トヨタの佐藤社長は5月30日の記者会見で「商用車の未来をつくる」と語った。大型車業界の未来で各社の立ち位置がどのように変わるのか。24年末を目指す新持ち株会社の設立が大きな転換点になりそうだ。
(福井 友則、水鳥 友哉)
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)6月1日号より