政府は、日本の水素政策を示す「水素基本戦略」の改定案を関係会議でこのほど了承した。世界的な水素市場の拡大見通しや技術開発競争などを踏まえ、競争力強化の方向性を示す「水素産業戦略」と、安全確保の「水素保安戦略」を新たに重要な柱として盛り込んだ。海外需要の取り込みを視野に入れたもので、今後15年間で官民合わせ15兆円を投資する。2040年までに水素の供給量を現在の6倍となる年間1200万㌧程度に引き上げる新たな目標も立てた。
6日に首相官邸で開いた「再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議」で改定案を了承した。17年に戦略を策定してから初の改定となる。今後は5年をめどに見直していく。
現行戦略では、水素の供給量目標を「30年に300万㌧」「50年に2千万㌧程度」としていた。今回、新たに中間目標を策定するとともに、国内外のサプライチェーン(供給網)構築などにおける政策支援などをきめ細かく盛り込むなどした。
新たに立てた「重要2本柱」の一つである水素産業戦略の狙いは、日本の水素コア技術を生かし「技術とビジネスともに世界で勝つ」ことだ。水素を「つくる」「はこぶ」「つかう」の各領域で技術開発を加速するための支援を行い、早期の量産化や産業化を目指す。
30年までに国内外で日本関連企業(部素材メーカーを含む)の水電解装置の導入目標を15㌐㍗程度とし、水素製造基盤の確立を図る。水素サプライチェーンの上流である水電解装置市場でシェアを押さえ、世界中のエネルギー供給における日本の存在感を高める狙いがある。エネルギー安全保障の観点からも重要になりそうだ。
水素の大規模利用に向けた環境整備も進める。標準化に関する取り組みでは、水素利活用の広がりに伴い、水電解装置や水素製造時の温室効果ガス排出量算定方法などの国際規格が話し合われている。日本政府としても、水素サプライチェーンの構築や水素関連産業への波及を踏まえ、必要な標準化を戦略的に検討していく。
水素関連事業の覇権をめぐる競争は厳しさを増している。米国では、50年までに水素の生産量を年間5千万㌧などとする目標を策定。「インフレ抑制法(IRA)」で、低炭素水素製造に10年間で約50兆円規模(水素以外も含む)の税額控除を行う予定だ。欧州では「グリーンディール産業政策」の中で、約5兆6千億円規模(水素以外も含む)となるグリーン投資基金の設立や水素銀行構想が進む。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)6月8日号より