国内の自動車産業で、専門知識を持つデジタル人材などとともに技能系人材の不足が深刻化している。自動車メーカーは採用地域を広げるなどし、かろうじて計画通りの人数を確保するが、知名度に劣り、勤務地が地方に分散する部品メーカーの不足感が顕著だ。各社は自動化やデジタル化で労働力不足を補う一方、地域との結びつきを強化するなど採用に知恵を絞る。
自動車メーカー14社では、8社が2023年4月入社で「技能職」の採用数が前年実績を上回った。トヨタ自動車は前年実績比50%増の914人、マツダは30.5%増の325人だった。両社の採用担当者は「企業の継続成長のため高卒人材の安定確保に努めた」と話した。
ただ、マツダの採用担当者は「高卒採用は難しい状況になっている」とも説明する。地元の広島県では知名度の高さをさらに生かし、地元の高校などに対して、積極的に企業アピールしていくという。トヨタはダイバーシティ(多様性)を促すためにも高卒以外の採用を検討していく。
一方、技能職の採用計画を満たせなかったのはスズキだ。同社の採用担当者は「人口減少、進学率向上により、(採用)対象者が減っている」と分析する。今後は求人エリアを広げるなどして必要な人数を確保したい考えだ。日野自動車も前年実績を2割も下回った。今後は第二新卒や中途入社、期間従業員の正社員化などを進め不足分を補っていく。
部品メーカーはさらに厳しい。日刊自動車新聞社が3月に実施したアンケートで、各社は「高卒採用での求人倍率が例年以上に高く、計画人数を下回った」(エフテック)などと口をそろえた。愛三工業やフジオーゼックスなども「高卒技能職の採用に苦戦し、計画人数を下回った」と答えた。
若年人口の減少や進学率の上昇で高卒採用は今後さらに厳しくなる見込み。全国規模で高校の統合や廃校などの再編も進む。大阪府では「府立高等学校再編整備計画」で27年度までに9校程度の入学募集停止を見込む。入学者が3年連続で定員割れし、改善する見込みがない学校を整理する。岡山県でも入学数が23年度以降、2年連続で100人を下回った場合は再編の対象に、2年連続で80人以下となった場合は、翌年度の募集を停止する基準を設けた。
大阪府内の中小自動車部品メーカーの社長は「高卒は地元で働きたい子が多い。近隣の工業高校や工科高校がなくなってしまうと人材確保ができない」と嘆く。同社では、近隣の幼稚園や小学生などからの工場見学を受け入れ始めた。より多くの人に会社を身近な存在に感じてもらい、ものづくりに興味を持ってもらうのが狙いだ。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を急ぐ自動車産業だが、多くの暗黙知を持ち、地道な改善を続ける技能系人材も競争力の確保に不可欠だ。少子化が進む中で、改善活動や技能伝承に必要な人員をどう確保していくか、各社は頭を悩ませている。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)6月9日号より