「自動運転など次世代技術に対応できる整備士を養成するには時間が足りない」―。日刊自動車新聞社が各地の整備専門学校などを対象に実施したアンケート調査では、多くの学校から教育の時間的余裕の不足を訴える声が寄せられた。車両技術の高度化で、電子制御技術への対応は待ったなしの状況だ。さらに、ここ数年の入試倍率の伸び悩みで、数学などの基礎学力に自信のない学生の入学が目立つようになった。こうした学生への補習授業のほか、外国人留学生への対応にも迫られている。教育現場は多忙な状況となっており、各校は危機感を募らせている。
「整備士の国家試験の対策をこなすのがやっとの状況で、次世代技術を教育する時間がなかなかとれない」と、ある整備学校の担当者はため息をつく。別の学校からは「国家二級自動車整備士養成課程は2年制のため、電子制御技術まで教える時間的余裕が乏しい」「次々と新しい技術が生まれる中、学習すべき内容が増えて通常の授業時間では対応できない」と、厳しい実情をうかがわせる訴えが届いた。
時間的余裕が乏しい背景の一つには、学生の基礎学力の低下がある。整備士は業務上、計算することも多く、数学などに対する一定の理解力が求められる。この点について、各校から「課題がある」「理解度の差が大きい」といった声が出た。ある自動車メーカー直営校の校長は「高校の『数学Ⅰ』程度は理解してほしいが、なかなか難しい」と実情を明かす。各校では放課後などに補習授業や追試験を実施する。基礎学力の底上げにも取り組む必要があるため、学生や教員の時間的余裕が減っている。
また、近年は自動車への関心が乏しい日本人学生が増えている。日本語の理解に不安を抱える留学生も目立つ。こうした学生に、教員は基礎から丁寧に指導する必要も出ている。「マナーや生活の指導など、専門技術以外の教育にも時間がかかる」と、打ち明ける学校もあった。
このような厳しい状況の中でも、各校は教員が次世代技術の知見を得られる取り組みに力を入れている。アンケートでは教員の技能向上に向け、メーカーやディーラー、全国自動車大学校・整備専門学校協会(JAMCA、中川裕之会長)などによる技術研修への参加を挙げる学校が目立った。さらに、「一部の教員のみが受けていた整備主任者研修を23年度からは全教員が受けるようにする」「国家一級整備士の取得を促している」との回答があったほか、工学教育に関する学会発表や大学院の博士課程への進学を積極的に支援している学校もあった。
アンケートは今春、整備を学ぶ専門学校や短期大学、職業能力開発機関など計84校を対象に実施。学生募集活動や就職、教員採用などの状況を尋ね、47校から回答があった。
(諸岡 俊彦)
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)6月14日号より