Q 先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)から1カ月。関係閣僚会議を含めると4月から12月まで長丁場の国際会議だね。自動車分野で何か議論はあったのかな?
A 議論の主要テーマとなったのが「脱炭素」です。自動車分野の脱炭素実現に向けた取り組みについて、G7広島サミットをはじめ、G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合(4月16~18日開催)、G7三重・伊勢志摩交通大臣会合(6月16~18日開催)などの共同声明に取り組みが盛り込まれました。
Q 具体的にはどんなことが盛り込まれたの?
A G7各国で、すでに自動車分野の脱炭素化に向けた目標をそれぞれ掲げていますが、実現への手段は「多様な道筋」があるとの認識を共有しました。その中で、日本が目標に掲げる2035年までに乗用車の新車販売で100%を「電動車」とすることも選択肢の一つとして挙げました。日本の電動車は、欧米と違って対象にハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)も含みます。
Q 自動車分野の脱炭素に向けた世界の潮流は電気自動車(EV)の普及ではないの?
A EVを普及させることは脱炭素実現に向けた大事な手段の一つですし、多くの自動車メーカーも開発や販売に力を入れています。しかし、国ごとに異なる発電用の資源、つまり電源構成によってはEVが必ずしも脱炭素化につながらないこともあるのです。また、今のEVラッシュは主に政府とメーカーによって人為的に作られたもので、消費ニーズとの乖離(かいり)が広がる可能性もあります。その時に「やっぱり脱炭素はできなかった」では深刻な温暖化を食い止められません。参加国の思惑はともかく、共同声明に「多様な道筋」を盛り込めた意義は大きいと言えます。
Q 確かに、環境保護団体やメディアの〝EV推し〟には釈然としないものを感じていたんだよね
A 日本自動車工業会が継続して主張してきたことは「敵は脱炭素」であるということ。脱炭素という〝山頂〟に到達するためには、EVだけではなく、さまざまな登り方があっても良いとG7で認識を共有したことは大きな一歩です。共同声明には、温室効果ガス(GHG)排出ゼロのEVや関連インフラなどに加えて、バイオマス(生物由来)燃料、合成燃料といった持続可能なカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)燃料を使う車両やインフラの促進も「多様な道筋」の一つとして明記されました。
Q クルマ選びにもいろいろな選択肢があることは良いことだね。ほかに注目点は?
A 地球環境保護と気候変動対応には、世界全体の保有車両から排出されるGHGの削減が非常に重要であると、G7各国と欧州連合(EU)の首脳が一致した認識を示したことです。環境性能に優れた新車の開発も大事ですが、自動車は10年以上、商用車はさらに長く使われます。こうした保有車両にも目を向け、脱炭素の取り組みを行うことも極めて大事と言えます。
Q ところで現在、世界の保有車両はどれだけあるの?
A 約15億3千万台です。これは年間新車販売の15倍超になります。G7では、35年までに加盟国全体の保有車両からの二酸化炭素(CO2)排出量を「少なくとも00年比で50%削減する」という方向性を打ち出しました。これまで各国では新車販売ベースでEVなどへの移行目標を掲げてきましたが、今後は保有車両の脱炭素に向けた具体的な取り組みも求められるのです。
Q 今月のG7三重・伊勢志摩交通大臣会合では何が議論されたの?
A 自動車から排出されるGHG排出量を評価するにあたり、原材料の採取から車両の製造、使用、廃棄・リサイクルまで「ライフサイクル全体での視点に立つことが重要」との認識で各国が一致しました。このライフサイクルアセスメント(LCA)の考え方は、これまで日本が官民一体で世界に訴えてきた主張でもあります。
Q 走行中のGHG排出量だけを評価しても「木を見て森を見ず」ということだね
A LCAで評価する際、計算手法が個社や各国で違うと意味がありません。世界的な規格化や標準化が重要です。このため、自動車の安全や環境基準を話し合う、国連欧州経済委員会の「自動車基準調和世界フォーラム(WP29」)で技術基準やガイドラインの策定に向けた取り組みを進めることも各国で申し合わせました。
Q 脱炭素以外のテーマで取り上げられたことは?
A 今回の交通大臣会合では「バリアフリー化の推進」と「地域における移動手段の確保」も初めて議論されました。いずれも各国が共通して直面する課題です。バリアフリーの推進では「G7政策対話」として実務者会合を開くことになりました。また、地方を含む地域の移動手段確保については、議長国を務めた日本が各国の課題や好事例などをまとめた政策集をつくります。
Q G7広島サミットはウクライナのゼレンスキー大統領が来日して話題になったね
A 交通大臣会合でも、ウクライナのクブラコフ副首相が出席しました。斉藤鉄夫国土交通相は18日に行った2国間会談で、東日本大震災などから復興した経験も生かし、ウクライナの復興支援に協力していくことを表明しています。またG7として、ウクライナの交通インフラの復興や交通サプライチェーンの強化で連携していく考えでも一致しています。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)6月26日号より