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自動車業界トピックス

自動車リサイクル、樹脂部品の再資源化の動きが広がる

政府検討の経済的インセンティブ制度に期待

樹脂部品を破砕して生み出したプラスチックの原料

自動車リサイクル業界で、樹脂部品の再資源化に取り組む動きが広がっている。バンパーなどの樹脂部品は軽量化を見込めるものの、コストや作業負担の観点から再資源化に乗り出す解体事業者は少なかった。ただ、世界的にカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の流れが加速する中、これまで以上に廃棄物を削減していくことに社会的な関心も高まっている。政府も新たな支援策を検討するなど、こうした動きを後押しする。これを受け、大手リサイクル事業者を中心に、樹脂部品の再資源化に向けた設備投資に踏み切る動きが広がっている。

リバー(松岡直人社長、東京都墨田区)は4月、住友化学との業務提携を発表した。使用済み自動車に含まれる樹脂部品の再資源化を協力して進める狙い。リバーが使用済み車の解体などを通じて発生した樹脂材からプラスチックの原料を生み出す。それを基に、住友化学が

樹脂部品を破砕して生み出したプラスチックの原料

再生ポリプロピレン(PP)を生産する。早ければ2025年度にも自動車メーカーに供給を開始する考えだ。

大型の投資に動くのは、共伸商会(佐藤幸雄社長、新潟市北区)だ。本社工場の近隣に使用済み車から取り外した樹脂部品を破砕し、再資源化する拠点の建設を進めている。CRS埼玉(加藤一臣社長、埼玉県川越市)も樹脂部品に付着した泥などを水で落としながら破砕できる機械を導入し、課題の一つだった生産効率の改善に取り組んでいる。

ただ、リサイクル事業者にとって、投資負担が重いことに変わりはない。一部の事業者からは「出来上がった樹脂もそれほど高く売れるわけではなく、1社から出る素材の量も限られる」「小規模な解体事業者ではとても導入できない」との声もあり、樹脂部品の再資源化に慎重な姿勢を見せるところも少なくない。

また、実際の作業においてもバンパーでは破砕前にフォグランプなどの付属部品を人の手で取り外す必要があり、現場スタッフの負担が大きいことも変わりはない。リバーの浅野晃可執行役員は「解体事業者に(車体から必要な部品を取り外した)〝ガラ〟と一緒に、樹脂も持ち込んでもらい破砕処理することも考えている」と、何らかの対策の必要性を訴える。

各社が期待を寄せるのは、政府が検討している経済的インセンティブ制度だ。自動車シュレッダーダスト(ASR)から樹脂部品やガラスを回収する解体事業者に対し、引き取る重量に応じてインセンティブを付与するもので、26年1月の開始を目指している。こうした負担軽減策があれば、リサイクル各社の前向きな投資判断につながりやすい。実際、CRS埼玉は、破砕機の導入に当たり行政の補助金を利用した。

日本自動車リサイクル機構(JAERA)の酒井康雄代表理事は、「世の中全体でカーボンニュートラルの議論が盛んになっているが、経済的に合わなくても回収しようという動きになってきている」とみている。樹脂部品の再資源化に対する注目度の高まりが、使用済み車の発生台数の低迷に苦しむリサイクル業界にとって救いの手となるのか、注目される。

(諸岡 俊彦)

※日刊自動車新聞2023年(令和5年)6月30日号より