国内の交通事故死者(24時間死者)が8年ぶりに増える可能性が出てきた。警察庁によると、今年1~6月(6月は29日まで)の死者は1178人と、前年上期を24人、上回った。シートベルト装着率の向上や安全技術の普及で減り続ける国内の事故死者だが、近年は減り幅が緩やかだ。政府は2025年に事故死者を2千人以下にする目標を持つ。目標達成や「交通事故ゼロ社会」の実現には、先進技術の普及や高齢者対策などハード・ソフトの両面で一段と踏み込んだ対策が求められそうだ。
22年の事故死者数は2610人。前年より26人減り、6年連続で過去最少を更新した。外出や移動が制限されたコロナ禍の20年に初めて3千人を下回り(2839人)、21年(2636人)、22年も最少記録を更新し続けていた。23年が増加傾向にあるのは、コロナ禍の制限や自粛ムードが緩んだためとも考えられる。都道府県別では大阪、福岡、宮城、三重、茨城などで事故死者が前年同期を10人以上、上回っている。過去5年平均の日別死者数をもとにした同庁の年間推計では2606人の見通しと前年(2610人)をわずかに下回るが、予断を許さない状況が続く。6月18日には北海道でトラックとバスが衝突し、5人が死亡する事故も起きた。
戦後、交通事故死者が最も多かったのは「第1次交通戦争」と言われた70年の1万6765人。その後は減少に転じたが、88年には再び1万人を超え「第2次交通戦争」と言われた。死者数が再び減り始めるのは95年のことだ。死者が減っている理由は一概に言えないものの①シートベルト着用率の向上②衝突被害軽減ブレーキなど安全装置の普及による事故直前の速度低下③飲酒運転の厳罰化などによる悪質・危険性の高い事故の減少④道路や信号の整備⑤歩行者の法令遵守―などが挙げられる。
一方、事故死者の減り方が緩やかになっている理由は①高齢者の増加②シートベルト、エアバッグ、衝突被害軽減ブレーキなどの装着率頭打ち③飲酒運転事故の下げ止まり―などがある。特に①は事故被害者としてはもちろん、ペダル踏み間違いによる暴走や逆走など、加害者にならないような対策が必要だ。認知や判断能力の衰えに起因する事故は、取り締まりの強化だけで減らしにくい。国も高齢者講習やサポカー免許などの対策に乗り出している。技術面では、体調の急変や意識喪失を検知し、自動で安全に停車させる機能が広がりつつある。さらに今後は、過密な混合交通下で電動キックボードや超小型モビリティなどによる事故が増えないか注視が必要だ。
現行の第11次「交通安全本計画」(21~25年)は「究極的には交通事故のない社会を目指す」を謳(うた)う。事故死者がピーク時の6分の1になったとはいえ、交通事故による損失額は約6兆7500億円(04年、内閣府)にもなる。
家族や友人が突然、亡くなったり、重い後遺障害を負ったりする悲しみは金額に換算できない。引き続き、産官学で粘り強い取り組みが求められる。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)7月1日号より