岸田文雄首相へ6月末に提出された政府税制調査会(首相の諮問機関)の「中期答申」に「電気自動車(EV)等の普及を念頭に置いた自動車関係諸税の見直しを図る必要がある」との文言が盛り込まれた。現行税制のもとでEVが増えていけば、燃料税収などが先細ることは確実だからだ。ただ、中期答申は「日本の自動車関係諸税の負担水準は先進国と比較して低い」との前提認識に立っており、経済産業省や自動車業界とは認識が大きく異なる。「走行距離課税」なども取り沙汰される中、政府・与党内の議論がどう進むか注目されそうだ。
政府税調の中期答申は、中長期的な税制のあり方を示したもの。岸田首相が2021年11月、経済社会の構造変化に対応した税制の具体化を諮問したことを受けて、19年以来、4年ぶりにまとめた。「今後、中長期的な税制のあるべき姿を検討する際の重要な素材となる」(岸田首相)。
中期答申では、租税原則の「公平・中立・簡素」に加え、財政需要を満たすのに十分な租税収入を確保する「十分性」を重要な原則と位置づけるべきだと提言した。「増税」という言葉こそ使っていないが、減税要望などを強くけん制する財政当局の姿勢が伺える。
全261㌻のうち、自動車関係諸税に関する部分は約5㌻。まず「近年における自動車関係諸税の改正の歩み」として、道路特定財源が一般財源化されてからの自動車関係諸税の改正について振り返っている。これまでの税制改正で実施した自動車重量税におけるエコカー減税の拡充、自動車取得税の税率引き下げ、自動車取得税の廃止などを説明しているが、いずれも消費税税率の引き上げを契機とする攻防があったことは触れていない。
自動車を取り巻く構造変化を説明する中では、道路インフラについて既存施設の補修・更新に加え、自動運転や電動化などに対応した新規設備投資も増加が見込まれると指摘し、自動車を取り巻く財政需要の増加が生じるとの見方を示す。
中期答申ではまた、財務省や総務省が主張してきた、エコカーの普及などに伴う国・地方の税収減を再び説明。今後、現行税制で既存の燃料課税を負担していないEVなどの普及が進めば、車体課税でも低い税率が適用されているために「減収の傾向が続くと見込まれる」と危機感を示す。
EVなどの普及を念頭に置いた自動車関係諸税の見直しは、昨年から国会などでも話題に挙がった「出力課税」や「走行距離課税」の導入検討に向けた議論の呼び水となる。
23年度の政府・与党による税制改正大綱では、EVの普及などカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に向けた動きを考慮し「税負担の公平性を早期に確保するため、その課税趣旨を適切に踏まえた課税のあり方について、関係者の意見を聴取しつつ検討する」とされている。
中期答申では「受益者・負担者原因の原則を踏まえ、自動車ユーザーの負担分を活用して、自動車産業を含むモビリティ分野の『支え手』になってもらうという考え方には引き続き一定の合理性がある」と主張する。支え手とは「課税対象者」の言い換えとも捉えることができる。
税制改正大綱では「利用に応じた負担の適正化等に向けた具体的な制度の枠組みについて、次のエコカー減税の期限到来時までに検討を進める」とし、25年末を念頭に置く。自動車関係諸税抜本的見直しの前哨戦はすでに始まりつつある。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)7月18日号より