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自動車保険金請求手続き、効率化と不正防止の両立が急務 「簡易調査」廃止の動きも 主流の「画像伝送」にも欠点

ビッグモーター(和泉伸二社長、東京都多摩市)の自動車保険金の不正請求問題で、損害保険ジャパンとの間で行っていた請求手続きを簡素化する「簡易調査」の導入や取り扱いが焦点の一つになっている。専門職による査定がないなど類似する方法は損保ジャパン以外も取り入れていたが、JAグループの共栄火災海上保険が9月末で廃止した。損保ジャパンやあいおいニッセイ同和損害保険も運用を見直している。ただ、通常の請求手続きでも専門職の立ち会いがない「画像伝送」による事故調査が8割にも上る。調査に必要な人手も不足する中、効率化と不正防止を両立できる調査手法が求められそうだ。

 損保ジャパンの簡易調査に対し、金融庁は「安易な損害調査の導入」として問題視している。ビッグモーターとの間で行われていた簡易調査の詳細は判明していないが、通常は損害調査の業務に関わる専門職の「技術アジャスター」がほとんど関与していなかった。損保ジャパンでは、一定の査定手続きは社員がやっており「いわゆる『完全査定レス』ではない」と説明している。

技術アジャスターは、日本損害保険協会(新納啓介会長=あいおいニッセイ同和損保社長)が定める民間の資格制度。試験に合格するなどすれば、損保協に登録される。現在は技能によって4ランクある。損害状態の確認などを担っており、事故の解決や適正な保険金の支払いに欠かせない。

この技術アジャスターについて、損保ジャパンと同様に、一定の条件下で関与しない方法を採っていたのは、共栄火災海上保険だった。同社はビッグモーターの工場にも適用していたが、9月28日に制度を廃止した。

また、技術アジャスターが手続きの最後にチェックする方法にしていたのが、三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損保。ただ、あいおいニッセイ同和損保は9月から一時中止しており、不正防止のためにやり方を練り直しているという。一方、東京海上日動火災保険は、手続きを簡素化した制度はないとしている。同社では画像伝送か、立ち会いによる2種類のみの調査手法となっている。

ビッグモーターが悪用したとみられる簡易調査に何らかの対策が必要なのは明らかだが、注目すべきは同様に技術アジャスターが車を直接見ない画像伝送による調査が各社の大半を占めていることだ。修理を早く済ませられることから、顧客側にもメリットがある手法として現在の主流になっている。損保協の新納会長は「(自社データでは)立ち会いよりも10日ほど早く、車を顧客に戻すことができる」としている。

画像伝送による調査が普及した背景には、複合的な事情がある。調査の効率化は常時求められているが、20年前ごろから広がってきたという。損保各社などが出資したコグニビジョン(島田浩二社長、東京都新宿区)が先駆けとなり、現在は数社がシステムを開発・販売している。特に、最近は少子高齢化で技術アジャスターを確保すること自体が難しくなってきた。さらに、コロナ禍で立ち会いを避けざるを得なくなった要因もあったようだ。しかし、画像伝送では技術アジャスターが関与しても、不正を見抜けなかったケースもあるなど課題も残る。

損保協の新納会長はビッグモーター問題についても、「画像チェックの隙間をついたと思う」と、制度や仕組みに不備があった可能性を指摘する。その上で「われわれも(資料やデータ収集が)十分に対応できていなかった」と肩を落とす。しかし、「全部立ち合いでやるのは物理的に不可能」ともみており、「画像伝送調査を進化させる必要がある」との見方を示す。

実際に、あいおいニッセイ同和損保ではスマートフォンを活用したツールを提供し、顧客自身が損傷部分の撮影をしたり、整備工場内へのカメラ設置の提案をしたりすることなどを考えているという。今後は画像伝送による調査を前提とし、どれだけ不正防止ができるか、各社ごとに工夫が求められることになるとみられる。

(小山田 研慈)

※日刊自動車新聞2023(令和5)年10月2日号より