難関国立大学などで、理工系学部の定員に〝女子枠〟を設定する動きが相次いでいる。女子学生の割合を高める狙いだが、同様に男子学生が圧倒的多数を占めている自動車メーカー系の整備専門学校では女子枠の導入に慎重な姿勢をみせている。女性だけが選考で有利になる仕組みは、ジェンダー(社会的・文化的性差)平等の概念にそぐわないとの意見が多いからだ。ただ、18歳人口の約半数を占める女子学生のほとんどを取り逃がすことは、整備学校の経営にとってもマイナスとなる。このため、各校は校舎の改修や奨学金給付を増やすなどし、女子学生への訴求を強化している。
2024年4月の入学者を選抜する入試では、東京工業大学や金沢大学が女子枠を導入した。男子学生の割合が高い理系学部の中でも、特に工学系は女子が少ない。このため、女子学生を増やすことで多様化を進める狙いで、推薦入試などで女子枠の導入を進めている。例えば、東工大は23年度の入試で女子枠を58人設定し、24年度はさらに85人を加える計画。計143人の女子枠が埋まれば、全体の定員の約14%に相当するという。
メーカー系整備学校の一部では、販売会社の店舗で接客に当たるショールームスタッフの養成学科を女子限定としているものの、国家一級や同二級の自動車整備士の資格取得を目指す学科は男女を問わない。ただ、入学者数に占める女子学生の比率は、3%程度で横ばいの学校が多い。そもそも、少子高齢化の影響で男子学生の確保も難しくなっており、女子学生を増やしたくても困難なのが実情だ。
こうした中で、整備学校でも定員の一部を女子に優先して割り振れば、一定の成果を得られる可能性もある。しかし、日産・自動車大学校の本廣好枝学長は「多様性を重視する時代に、男子や女子といった枠で募集をするのはどうなのかという気持ちもある」とし、自校への導入には慎重な考えを示す。同校は外国人留学生も積極的に受け入れており、性別や国籍にこだわらず学びたい人を支援する考えだ。
トヨタ東京自動車大学校(上田博之校長、東京都八王子市)も現時点で女子枠を導入する考えはない。ホンダ学園(高倉記行理事長、埼玉県ふじみ野市)も、「学内で話題になることはあるが、現在のところ導入の予定はない」(中嶋歩常務理事)としている。
メーカー系各校は特別枠の設定とは異なるアプローチで、女子学生への訴求に力を入れている。トヨタ東京自大は女子学生対象の返済不要型奨学金を17年度に導入。希望者全員が受給でき、当初10万円だった支給額も20年度から24万円に増やした。また、同校では19年度に営業スキルなどを学ぶ「トヨタセールスエンジニア科」を開設したが、この背景には「文系の学生が入りやすい学科をつくることで女子の入学を増やしたい」(上田校長)との思いもある。
学校設備の改修にも積極的に取り組む。日産自大はここ数年、女性用のトイレや更衣室の改修を急ピッチで進めたところ、「女子学生から好評」(本廣学長)だという。トヨタ東京自大は更衣室にドレッサーを設置。ホンダ学園も女子学生が快適に過ごせる環境づくりに向け、女子高を見学するなどの取り組みを実施してきた。
少子高齢化で18歳人口は今後さらに減少することが見込まれている。メーカー系であっても学校経営を取り巻く環境が、厳しくなると見込まれる。これまで、整備士と縁遠かった女子に仕事のやりがいや魅力を発信していくことが、持続的な学校経営の近道になりそうだ。
(諸岡 俊彦)
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)11月01日号より