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自動車業界トピックス

愛知・岐阜でラリージャパン開催、世界を魅了する日本の原風景

地元への誇りと自信、愛着を再認識

2023年の世界ラリー選手権(WRC)最終戦「フォーラムエイト ラリージャパン」が、愛知県・岐阜県で開催された。競技区間「SS(スペシャルステージ)」には多くのファンが集まり、移動区間「リエゾン」では沿道から旗を振って応援する地元住民の姿が随所で見られた。ラリージャパンは自然豊かな中山間地域で行われる。住民にとっては何気ない日常風景だが、実は世界を魅了する「日本の原風景」でもある。この地域の資産とラリーコンテンツをどう活用するか。両県で行われるラリージャパンは2回目を迎え、行政と住民が一体となり地域の魅力向上、活性化につなげようとする動きは着実に力強さを増している。

古い町並みが残る岩村本通りを走行するラリーマシン

ラリージャパンの主催者として名を連ねる愛知県豊田市。自治体がモータースポーツイベントの主催者になるのは珍しく、その理由について太田稔彦市長は「ラリーは極めて公益性の高い興行だと位置付けて主催者になることを決めた」と明かす。

豊田市がラリー開催を通じて実現をめざすのは①山村振興②交通安全③産業振興の3つだ。豊田市を訪れる交流人口の増加に伴う地域活性化はもとより、高い運転技能を持つラリードライバーによる安全運転の啓発、そしてWRCの開催地であることをブランド化することで、国内外からの観光客を呼び込むなど経済効果の創出にも期待を寄せている。

豊田市では昨年のラリージャパン初開催から、SS観戦と宿泊、飲食などの地域の魅力体験をセットにしたツアーの販売や、WRC開催に合わせたキャンプ場の整備など、いわゆる「ラリーツーリズム」に力を入れてきた。今年はヘリコプターを活用した観戦プログラムにも挑戦。日本の原風景が残る豊田市と世界最高峰のラリーの魅力を満喫してもらうための新たな取り組みにも挑戦している。

ラリーを活用した交通安全活動にも注力する。ラリードライバーを講師に招き、交通安全の大切さを伝える小中学生向けのラリー教室や、高齢者向けの安全運転教室などを積極的に開催している。プロドライバーは命の大切さを誰よりも知り、高い運転技能を備える。だからこそ「ラリーは交通安全のすそ野を広げる教育の仕組みとして重要だ」と太田市長は強調する。

ラリージャパン最終日にSSが行われた岐阜県恵那市は、モータースポーツと車文化に優しい町づくりを進めている。モータースポーツを通じて地域の魅力を発信したり、観光や産業の振興につなげるだけでなく、年間を通じて車好きが訪れるための活動を推進している状況だ。

恵那市の特徴は市民を巻き込んだ取り組みにある。市内の37事業所がタッグを組んで「恵那市ラリー応援隊」を結成したり、商店街の夏祭りや市内最大の「みのじのみのり祭り」はラリーイベントと共催し、マシンの展示やエンジン音の体験会、ワークショップなどを実施する。また、市内を走るローカル鉄道「明知鉄道」では、ラリージャパンのラッピング列車を運行。19日には列車とマシンがSSスタート地点を並走し、恵那市での競技を盛り上げた。

SS観戦者を増やす取り組みも強化している。今年は観戦エリアの収容能力を600人から3千人に拡大し、山間部で行われるSSでは最大のキャパを確保。市内外での宿泊パックも用意した。

リエゾンイベントの魅力向上にも努めており、江戸から明治時代にかけての建物が色濃く残る「岩村本通り」でのマシン走行もさることながら、クラシックカーパレードと共催するなど、SS、リエゾンのそれぞれで集客増につながる取り組みを展開している。

恵那市の小坂喬峰市長はラリーの魅力について、「何より市民が参加しやすい。市民一体となったイベントはやっぱりラリー。私の想像以上に一体感がある」と話す。

「ラリージャパンを開催することは市民のプライドになり、誇りになる」。小坂市長はこうも指摘する。豊田市の太田市長もまた「日本の原風景をマシンが走る姿を見て、住民が地元への誇りと自信、愛着を持ち始めた」と話す。

恵那市や豊田市に限らず、SSが設定できるような中山間部は、少子高齢化や人口減少が深刻化する地域でもある。便利・不便という一般的な世の中の価値観、物差しで判断すると、不便な場所に当たるだろう。それにも関わらず、世界選手権のラリージャパンが開催されるのは日本の原風景が地域の資産として残り、WRCの魅力をさらに引き立てるステージになるからでもある。

住民からすると何てことのない田舎の風景かもしれないが、そこには世界を魅了する価値が存在する。「山で暮らしている人たちは誇りと自信をもって、自分が住んでいる故郷をもっともっと語ってもいい」(太田市長)。ラリーは、日本に点在する中山間地域の存在価値を高め、そこで暮らす住民が地元に対する誇りと自信、愛着を取り戻すための重要なコンテンツになるのかもしれない。

(水町 友洋)

※日刊自動車新聞2023年(令和5年)11月24日号より