政府は2050年までに乗用車新車販売で電動車100%という目標を掲げ、クリーンエネルギー自動車の普及とインフラとしての充電器の設置を進めていく。経済産業省は、電動車の普及と表裏一体である充電器について電気自動車(EV)の普及見通しや性能向上などを踏まえ、中長期的に持続可能で利便性の高い充電インフラの整備に向けた「充電インフラ整備促進に向けた指針」を策定した。
充電インフラについては、「グリーン成長戦略」(21年6月改定)で30年までに「公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラを15万基設置する」との目標を掲げ、これまで約3万基を整備してきた。EVなどの普及、充電インフラの整備への動きが具体化する中、まずは「充電器設置目標の倍増」を掲げ、30年までに15万口を30万口とし、総数・総出力数を現在の10倍にして充電インフラ整備を加速する。さらに高出力化を図り、高速道路では90㌔㍗以上で、150㌔㍗も設置し、高速道路以外でも50㌔㍗以上を目安とし、平均出力を40㌔㍗から80㌔㍗へ倍増することで充電時間を短縮し、ユーザーの利便性が高い充電インフラを整備する。
日本では自動車の1日の平均走行距離50㌔㍍以下が約9割と、自宅で充電できれば十分な場合も多い。軽自動車が約4割を占め、電池の容量や充電速度が比較的小さいものも多い。また、戸建て持ち家率が約53%と欧州諸国と比較して高いことから、まずは基礎充電ができる環境を作りつつ、必要な量の公共用充電器を整備していくことが重要だ。
急速充電は現状9千口の大半が50㌔㍗未満で、平均的な出力は約40㌔㍗。普通充電も現在は3㌔㍗が大半で、6㌔㍗や、今後は10㌔㍗の導入も含め、総出力を増強する必要がある。充電インフラ整備は、社会的負担を低減しながら、利便性の高い最適な充電インフラ社会を構築するため、集合住宅などでの普通充電器と高速道路などでの急速充電器の整備を一体で進める。
30年に向けて整備を目指す充電器の口数は従来の15万口から倍増し、公共用の急速充電器3万口を含む充電インフラ30万口の整備を目指す。これに向けては新車販売の市場規模やEVなどの普及の見通し、住宅環境、車両の大きさ、平均的な走行距離などの状況、充電器の設置が見込まれる施設の数や規模、自治体や企業などにおける整備の方針などを勘案する。また、充電器の高出力化を進め、急速充電の平均出力を現在の約40㌔㍗から80㌔㍗に倍増するなど、充電器全体の総出力を現在の約39万㌔㍗から10倍相当となる約400万㌔㍗確保を目指す。
急速充電器は現状9千口のうち、eモビリティパワー(四ツ柳尚子社長、東京都港区)のネットワークにある約8千口については50㌔㍗未満が57%、50㌔㍗以上90㌔㍗未満が31%、90㌔㍗以上が12%(23年3月)で、平均的な出力は約40㌔㍗。置き換えや新規設置の際に充電器の高出力化を図ることが重要で、30年に向けて3万口を目指し、平均的な出力を2倍の80㌔㍗まで引き上げる。車両の電池容量と充電性能を踏まえ、高速道路など充電ニーズが高い場所では1口90㌔㍗以上の高出力の急速充電器を基本とし、特に需要の多い場所には150㌔㍗の急速充電器も設置する。90㌔㍗以上を設置する際は複数口に対応した機器を設置し、設置数が増える場合は小型・分離型の充電器を設置する。充電器の稼働率には大きなばらつきがある一方、インターチェンジ(IC)付近の高速道路外のEV充電器活用も含め、電欠の不安を緩和するため特に高速道路における整備間隔の目安を示す。
急速充電(公共用、主に経路充電)は高速道路で原則、1口の出力を90㌔㍗以上とする。また、設置スペースが限定的な場合も対応できるよう、充電事業者や道路管理者のニーズを踏まえ、小型化や複数口化の開発・導入を充電事業者・充電器メーカーに促す。1カ所に4口以上設置する場合は、原則1口150㌔㍗(150㌔㍗にアップデート可能な充電器も含む)を1口以上は設置する。
30分で充電可能な充電量なども踏まえ、IC付近の高速道路外のEV充電器の活用も含めて概ね70㌔㍍以上間隔が開かないようにし、ユーザーを限定しない形で充電器を配備する。空白地域などの稼働状況を踏まえ、ネットワーク維持の観点での設置の場合も50㌔㍗以上は確保する。
高速道路会社と充電事業者は、高速道路のサービスエリア・パーキングエリア(SA・PA)で25年度までに1100口程度まで整備する見込みだ。まずはこの実現を目指しつつ、その後の高速SA・PAの具体的な設置は、IC付近の高速道路外のEV充電器の活用を含め、30年2千~2500口を目安に、経産省・国土交通省・高速道路会社でネットワーク維持の観点も含めた考え方を議論する。
道の駅、ガソリンスタンド(給油所)、コンビニエンスストア、自動車ディーラーなどでは、駐車スペースに余裕がある場合や充電ニーズが高い箇所は1口の出力が90㌔㍗以上で複数口に対応した充電器の設置を行い、難しい場合でも50㌔㍗以上の出力を確保する。
道の駅では 22年の898口を30年に1千~1500口(道の駅約1200カ所に対して平均1口程度を想定)。給油所は22年の179口を30年に1万口(給油所約2・7万カ所のうち2割程度の給油所で1カ所平均1・5口程度を想定)を目安とする。コンビニは22年の1086口を30年に5千~1万口(店舗数約5・7万軒のうち設置可能な有効面積を有する駐車場有店舗の10%を想定)とし、自動車ディーラーでは22年の3124口を30年に7千~1万口(店舗数約2万のうち50%程度を想定)とする。
公共用の普通充電器は施設への滞在時間でコストを抑えて充電でき、基礎充電がない場合や経路充電の機能を一部補完することが期待される。他方、事業者などが積極的な設置目標を掲げても稼働率が低い場所に設置した場合、事業が継続できず、非効率な投資となり、結果としてリソースが限れる中では全体最適とならない可能性もある。このため、長距離走行後の目的地で滞在時間が長い施設や、基礎充電の代替サービスを求めるユーザーが多い目的地で滞在時間が長い施設などを念頭に、稼働率などのデータも確認しながら必要性の高い施設を具体化していく。稼働率については、実際のデータを元に比較するための充電時間や充電可能時間などの考え方を検討し、30年における設置数は附置義務のある駐車場の台数や充電事業者の整備目標などを踏まえ10~15万口の設置を目安とする。
集合住宅などにおける基礎充電は、特に既築において管理組合の合意形成が必要など、通常の設置と比較して検討すべき課題がある。また、機械式駐車場では設置可能な駐車場が限定的で設置コストが高額になるなどの課題がある。加えて、既築の集合住宅に設置するより低コストで設置できる新築の集合住宅における充電器の整備を促すことが重要だ
23年度補助金の予備分制度においては限られた予算で効果的に充電器の整備を進めていく観点から、一度の申請で補助対象となる口数の上限を設けるとともに、追加設置については当該集合住宅におけるEVやプラグインハイブリッド車(PHV)の充電器の利用実態を考慮する。なお、今後の制度については、予備分制度の執行状況も踏まえて検討していく。
30年における設置数の目安は施設の数や規模、充電事業者の整備目標、東京都の集合住宅における設置目標などを踏まえ、集合住宅や月極駐車場など(いわゆる基礎充電)として10万~20万口とする。これにより、集合住宅におけるEV・PHVユーザーの基礎充電充足率(集合住宅に住むEV・PHVユーザーのうち、充電を住宅内で可能なユーザーの割合)10%以上を目指す。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)11月27日号より