日本の自動車メーカーは電気自動車(EV)市場をキャッチアップできるか―。
グローバルでEVシフトが加速している。環境規制が進む欧州や、自動車の最大市場と言われる中国で普及が進む一方、日本では新車販売におけるEV比率は2%程度にとどまる。ラインアップが限られていることや、価格、インフラなどが普及の課題となっている。各社はEV開発を進め、本格的に拡大するEV市場に対し、シェア獲得を狙っている。
日本でのEV普及、それによる自動車メーカーのビジネスの変化について、日々最前線で業界を取材する記者たちは、どのように見ているのか。各担当分野の目線から語る。
日本のEV普及の現在地
野元政宏編集委員「日本の電気自動車(EV)普及状況についてどう捉えているか。新車販売におけるEV比率が5%を超えると一気に市場が拡大すると言われるが、日本は相変わらず2022年は2%で、23年も同レベルになりそうだが」
舩山知彦記者「インポーターはEVシフトしていく方向だ。分かりやすいのがボルボで30年までにEVにすると宣言している。23年に初めて(輸入車のEV販売台数が)2万台を超えるので、今年は結構なスピードで進んでいくとの肌感覚がある。輸入車ではテスラが日本市場で6千台程度だが、それに近い5千台程度に増えてくるブランドも出てくるだろう。日本市場でも決して『テスラ一強』ではなくなった。24年はテスラ超えのブランドが出てくるかが焦点になる」
野元「日本の自動車メーカーの状況は」
舩山「台数が多く話題になったのは軽EV。ただ、ここにきて日産自動車『サクラ』の販売台数が落ちている」
水鳥友哉記者「これまでも、補助金が切れる境目などで(電動車の台数が)落ちた時があった。落ち込んだ理由はまだ分からないが、個人向けのEV需要の(現時点での)実力がこれくらいの台数なのかなとも思う。補助金も決して海外に比べて少ないわけではない」
舩山「国産車ではプラグインハイブリッド車(PHV)のユーザーが、次もPHVを購入する割合が高いとも聞く。三菱自動車ではPHVユーザーはガソリン車には戻らないという話はよく聞く。EVは一度乗って興味がなくなったから手放すという人も少なくない気がする。充電などガソリン車に比べて使い勝手が悪いことが一つあるのかもしれない」
野元「ハイブリッド車(HV)はEVシフトが進む欧州や中国で伸びてきている。日本ではEVは伸びていないがHVが伸びている状況だ」
村田浩子記者「EVを買うメリットがあるのか。急速充電器の設置数でいうと、米国は約3万基、韓国は約2万基、ドイツが1万4千基程度。日本よりも国土が小さい韓国やドイツの方が数は多い」
野元「(急速充電器での)技術革新も起きていない」
村田「次の(国の)予算案になると思うが、普通充電器よりも急速充電器の整備事業者に優位性を持たせる制度になる。急速充電器にシフトできる体制を作るのが国の役割だ」
水鳥「インフラや補助金などがあれば顧客マインドは変わるのか。環境のために車を選ぶユーザーがいるのか」
野元「明日の子どもたちのために、どう美しい地球を残すかが大事だ」
水鳥「それなら、EVを選択した人へのインセンティブが日本で普及させていくには必要だ。電気代の安いオフピーク時の充電など、各社いろいろなことを試している。(顧客へのメリットに対する)答えは難しいと思う」
舩山「まず進むのは商用車。軽商用EVのラインアップは24年以降増える。企業も脱炭素化の流れなので、導入が進む。マネジメントシステム全体で(EV導入などを)行えば、コストダウンにもつながる」
村田「BYDが日本市場に参入した。日本で普及するのか」
野元「あの価格でEVを出せるのはすごい。でも乗ると(日本車と)比べてしまう」
舩山「作り込みは日本車に負ける。特に防音など音に対する作り込みが甘い。ここを気にする人は買わないと思うが、買う人はいるだろう。『ドルフィン』だと、同サイズの輸入車と比べて補助金込みならば安いし、日産『リーフ』に比べると45万円安い。ヒョンデよりも本気で日本市場を取ろうとしている」
野元「BYDはディーラー網を構築している。日本市場にきちんと合わせた展開だ。『ドルフィン』でも日本や欧州、中国とそれぞれの地域に合わせて価格設定も異なる。市場に合わせてマーケティングしている」
新たなビジネスモデルを模索
村田「日本の自動車メーカーはある程度の国内生産を維持すると言っているが、EVシフトする中で姿勢は変わるのか」
野元「国内生産自体は減るだろうが、経済産業省の電池の補助金もあり、国内でEVを生産する土壌づくりが始まりつつある。工場のラインもある程度変えなければいけないが、大規模な投資は必要ない。一方で、ギガキャストになると話が全然違う。投資も設備を置く場所も規模が異なる」
水鳥「結局(EVを)『やらないと』と言って日本の自動車メーカーが出している印象だ。今のままだとその先の普及にまでつながらない」
野元「みんな困って、一生懸命開発しているのがSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)。買った後のクルマの価値を付けて、その後も儲かる仕組みにするかが重要だ。テスラは全部コネクテッドカーで、予防整備もある程度分かる。SDVはガソリン車でもできるが、やっぱりEVで、ソフトを制御して新しいことをやろうという流れだ。ただ、ソニー・ホンダモビリティ(SHM)のようにSDVをやると言っていても、『じゃあ何をするのか』ということをテスラ以外はどこも出していない状況。だからテスラの利益率はすごい」
舩山「整備面でもEVシフトで大きく状況が変わる。部品点数は減るので、アフターサービスの収益は減ると言われている。販売では欧州ではすでに始まっているがオンライン販売でビジネスが大きく変わる。ただ、欧州ではこの手法が順調に進んでいないので、正直全世界でEVが普及し、販売方法が変わった時のビジネスモデルは模索段階だ」
水鳥「EVが普及すると自動車メーカーの経営面などでの課題はどんなものがあるか。利益率が悪いので儲からない。あとは技術的な差別化が難しくなるといった点があるが」
村田「EVになると、今の供給網は崩壊する。『待ちの姿勢』だったサプライヤーの今後は難しくなる。EVになると(部品の)一体化が進むので大手に集約される動きは加速するだろう。モーターやインバーター、減速機などを一体化したeアクスルでも競争が激しくなっているが、eアクスルを軸にしている企業は大丈夫なのか」
野元「eアクスルはコスト削減のためでもある。中国では『Xin1』として展開するメーカーもある。まとめ役(のサプライヤー)がいて、そこに各部品を手がける企業がぶら下がる。今、市場拡大している中での競争なので、生き残りといった(深刻な)状況ではない」
水鳥「eアクスルを手がける企業に日本のギアメーカーなどは入っているのか。中国メーカーですべて手がけてしまうのではないか」
野元「結局(ティア2以降の)仕事も中国が早い。中国のやり方は製品を持ってきて、その場で価格を決めてしまう。2年くらいでどんどんEVを出してくる。ただ、持続的な経営とは言えないので、日本企業が入るのがいいのかは疑問だ。一方で、部品メーカーにはEVビジネスを見切っているところもある」
村田「現状を維持するよりも早々に道筋を決めたほうが良い。立ち位置を理解してそれに見合った投資をしていく必要がある」
野元「EVになると水平分業が進むと言われるが、テスラやBYDはなるべく自分たちで内製化している。水平分業と垂直統合はどちらがいいのか」
村田「日本企業だとテスラやBYDのような方式を取りつつ、有利な部品は現状の供給網から調達するのがいいのではないか」
水鳥「(自動車メーカーは)ある程度任せてしまうと思う。ある自動車メーカーの調達担当がeアクスルで日本の部品大手と一緒にやっているが、今後は中国のメーカー(の製品を使うこと)になり得るという話をしていた。EVでは(開発)スピードやコストなどが競争になるので、(中国メーカーの製品を)使うことになるのだろう」
【座談会参加者】
野元 政宏 編集委員
水鳥 友哉 記者(自動車メーカー担当)
村田 浩子 記者(部品兼行政担当)
舩山 知彦 記者(流通担当)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)1月1日号より