輸入車各社がコンパクトな電気自動車(EV)に新たな商機を見出している。2023年夏以降、各社が欧州でコンパクト車の目安とされる全長4.5㍍を切るコンパクトなEVを相次いで発売している。各モデルは安全性や走行性能、手頃な価格設定を打ち出し、差別化を図る。輸入EVは販売台数が伸びているが、全長4.5㍍以下のモデルはまだ少ない。このため、需要開拓の余地は大きい。また、量販も見込める小型車領域が定着すれば、輸入EV市場の成長にもつながっていく。
近年の輸入車のEVシフトはDセグメント以上の車種や高額車がけん引してきた。比較的コンパクトなCセグメント車も発売されたが、全長4.5㍍を超すモデルが多く、22年ごろまでBセグメント以下の選択肢は乏しかった。
ただ、23年に入ってコンパクトEVが増え始めた。1月には中国・比亜迪(BYD)傘下のBYDオートジャパン(東福寺厚樹社長、横浜市神奈川区)が全長約4.4㍍のSUV「ATTO3(アット3)」を発売。翌月にはビー・エム・ダブリュー(BMWジャパン、長谷川正敏社長、東京都港区)も全長4.5㍍のSUV「iX1」を投入した。
8月にはボルボ・カー・ジャパン(VCJ、不動奈緒美社長、東京都港区)がBセグメントの小型SUV「EX30」を発表した。新型車は先進安全装備が充実している。ドアを開けた時に、電動キックボードなどとの接触事故を防ぐ「ドア・オープニング・アラート」、注意散漫や眠気を音で警告する機能などが盛り込まれた。同社によると24年1月中旬までに600台前後の受注を獲得したという。VCJは2月以降販売店に試乗車を配備し、ユーザーが試乗できる環境を整える意向だ。
ステランティスジャパン(打越晋社長、東京都港区)は、10月にアバルトブランドで小型スポーツEV「500e」を発売した。コンパクトEVでは希少なスポーツモデルであり、排気音やエンジンを再現した独自のサウンドシステムを搭載することで他のEVとの差別化を図った。広報担当者は「10月の発売後、予想以上のペースで売れている」と現状を説明する。
輸入EVは1千万円を超す高額車も多い。欧州ブランドではコンパクトEVでも車両価格が500万円を超える。
一方、国産車から輸入車に乗り替えやすい価格帯とされる400万円を切る車両をアピールするのが、中韓勢のコンパクトEVだ。BYDオートジャパンはアット3より一回り小さいハッチバック車「ドルフィン」を9月に投入。基本グレードの価格を363万円に設定した。
11月にはヒョンデモビリティジャパン(趙源祥社長、横浜市西区)の小型SUV「コナ」が登場した。BセグメントのEVながらエントリーグレードの価格を399万3千円とした。若年層でも手を出しやすい価格設定が功を奏し、「初めてEVを購入されるユーザーが多い」(広報)という。さらに「テレビコマーシャルが好評で試乗会の予約も順調だ」(同)と手応えをつかむ。
狭小な道路が多い日本では、取り回しの良い小型車クラスの需要は大きい。4.5㍍以下のEVを導入した各社は機械式駐車場にも収まる使い勝手の良いサイズ感を訴求点の一つとする。
コンパクトEVは輸入EV全体の起爆剤の役割も担う。23年の輸入EV販売台数は前年比59.6%増の2万2890台。急成長を続けているが、「購入者はまだ新しいもの好きの一部の人たち。一般ユーザーのEVの認知度はいまだ低い」と見る業界関係者は多い。量販が見込めるコンパクトなEVが増えれば、市場全体が盛り上がる。輸入EV自体の認知も高まる好循環も期待できる。
一方、EV補助金の動向が24年の輸入EVの販売台数を左右しそうだ。政府は24年度の「クリーンエネルギー自動車(CEV)補助金」の制度案を公表。この中で、航続距離などの車両性能に加えディーラー数やアフターサービス体制も加味して補助金額を決める方針を掲げた。公共の急速充電器の設置数や整備士育成に向けた取り組み内容なども評価基準として検討中のため、国産EVと比べると輸入EVが達成できる項目は少なくなる見込みだ。補助金が減少する輸入EVが出てくる可能性もあり、輸入車業界は動向を注視している。
(舩山 知彦)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)1月22日号より