2023年度の国土交通省「交通文化賞」を受賞した日本大学危機管理学部の福田弥夫(ふくだ・やすお)教授。40年近く自動車保険や自動車損害賠償保障(自賠責)制度の研究に携わってきた。政府の会議などにも加わり、自賠責制度による被害者救済の充実や国民への理解浸透などに尽力してきた。福田教授は「共助の仕組みを取り入れた日本の自賠責制度は、世界を見渡しても例がないもので、人々の安心・安全を支えてきたものだ」と話す。
―受賞の気持ちと、これまでの活動を振り返って
「自賠責制度の改正に関与して今年で足掛け26年となる。1999年から運輸省(現国土交通省)の運輸大臣懇談会のメンバーとして、政府再保険廃止などを盛り込んだ2001年の自動車損害賠償保障法(自賠法)改正から、22年の被害者救済に充てる新たな賦課金導入などを盛り込んだ自賠法改正まで携わってきた。研究者として考えていた(自賠責制度の)仕組みや方向性などが実際に条文化されて動き出したことは非常にありがたく、法律学の研究者としてこの上のない喜びだ」
「特に、昨年から自賠責保険料の一部として新たに設けられた賦課金の導入は大きかった。被害者救済を安定的に行うために必要だった。自賠責保険を管理する自動車安全特別会計から国の一般会計に繰り入れた積立金を『全額返せ、返せ』と訴えてきたが、いつまで経っても返ってこない。このままでは積立金が枯渇する可能性が高く、そうなると被害者救済もできなくなる。そうしたことから、賦課金導入については先頭に立って実現に取り組んできた」
「実は、賦課金の導入は01年に成立した改正自賠法の積み残しでもあった。当時も他の委員と『将来的には絶対に賦課金の導入だね』と話をしていた。なので、直近の改正自賠法は『積み残しの改正』だと国会の委員会でも答弁した」
―一般会計から自動車安全特別会計への繰り戻しは遅々として進まない
「01年の改正自賠法の時、約2兆円あった累積運用益を1兆1千億円と9千億円に切り分け、1兆1千億円は保険料に充当した。残る9千億円で被害者救済事業を行う手はずだったが、このうち約6千億円が一般会計に貸し出されていた。当時、委員の私は『すぐ返ってくるだろう』と考えていた。過去にも貸し出されたことがあり、2年で返済されていたからだ。まさか、これほどまでに繰り戻しが進まないとは思ってもいなかった」
―被害者団体や自動車業界団体などで組織する「自賠責制度を考える会」の座長としても精力的に活動してきた
「自賠責制度を考える会は民主党政権時に行われた特別会計の剰余金など『埋蔵金』発掘騒動の時に動き始めた。この時に(交通事故被害者救済事業の原資である)交通安全特別会計が埋蔵金の対象となり、守らなくてはならなかったからだ。交通安全特会は税金ではなく、自賠責保険料から自動車ユーザーたちが負担して払ったお金が原資となっているのだから、そう簡単に召し上げるものではない。活動の結果、守ることはできた」
「ただし、その後はなかなか繰り戻しが進まない。そのため会の活動を再開した。18年度に一般会計から23億円(当初予算)の繰り戻しとなったが『この金額から考えると(全額繰り戻しまで)100年超かかるよね』との話だった。ここ数年は繰り戻し額が増額され、やっと100年を切った状況だが、まだそう簡単には返ってこないだろう」
―22年の自賠法改正で導入した新たな賦課金についての考え方を改めて教えてほしい
「安定した被害者救済事業を行うためには賦課金は絶対必要だと考えていた。金額の多寡や導入時期の問題はあったが、22年の自賠法改正で実現したことは最良のタイミングだった。自賠責保険料が下がったため、新たな賦課金を導入しても高くはならなかった。だから、批判などにさらされずに法案が通ったのだと思う」
―今後の活動については
「まずは昨年12月25日付で就任した『自賠責保険・共済紛争処理機構』の理事長として被害者救済に取り組んでいく。自賠責制度を考える会の座長としては、僕らが毎年毎年、財務大臣に(繰り戻しの)お願いにいかなくてもスムーズに繰り戻されることを期待している。3月で定年を迎えるが研究者に定年はないので、これからも自動車保険の研究を続けたいと思う」
―自動運転時代になると、自賠責制度や被害者救済のあり方も変わっていくのか
「将来的には変わっていくのだろう。ただ、日本の自賠制度の考え方は『共助』の仕組みだ。これは絶対忘れてはならない。被害者救済事業も絶対に後退してはならない」
(平野 淳)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)1月26日号より