トヨタ自動車の佐藤恒治社長は、認証不正を起こしたダイハツ工業の事業を再編する考えを示した。ダイハツの奥平総一郎社長は不正の遠因として「こなし得る量に対し、仕事を詰め過ぎた」と話す。トヨタ子会社のダイハツがグループの中で役割分担をどう変えるのか。焦点となりそうなのは、日本、新興国ともに販売拡大のけん引役になっていたトヨタ向けを中心とした小型車事業だ。

「A、Bセグメントの車に対し、負担がかかっていたのであれば、本来のところにダイハツを置いて、それを確実に回し、それ以外の部分についてはグループ全体で補完する」―。国土交通省がダイハツに是正命令を出した16日夕、トヨタ東京ビル(東京都文京区)で取材に応じた佐藤社長はこう語り、〝本来のところ〟である軽事業に同社のリソースを集中させる可能性を示唆した。

ダイハツによる認証の不正は、14年以降にOEM(相手先ブランドによる生産)車を増やしたことを契機に増えたとされるが、販売ボリュームの拡大を加速させたのが19年に始めた「DNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」の展開と言える。

昨年、トヨタがタイで生産を始めたヤリス・エーティブはダイハツのプラットフォームがベース

DNGAは、軽を起点にA・Bセグメントを一括企画する開発設計思想だ。ダイハツは、DNGAの展開でダイハツ開発車(トヨタ工場での生産含む)の生産台数を25年に250万台に引き上げる方針を示す。18年のダイハツの生産台数は175万台で、残りはトヨタ向けをはじめとするOEM車の拡大で計画達成を狙う構想を描いていた。その後、DNGAの適用車種とともにダイハツの生産台数は順調に増え、半導体不足やコロナ禍の影響が残る中で22年度には過去最高の世界生産台数を記録した。その一方で現場の負荷は増す一方だった。

1カ月後に公表するダイハツの今後の経営体制では、トヨタグループの中でダイハツがリードしてきた「新興国小型車カンパニー」の事業をトヨタグループに移管するなどの再編策が示される可能性がある。17日にダイハツが開いた報道向け説明会でコーポレート統括部の井出慶太統括部長は「今のダイハツが持っている実力において、どこまで(事業を)広げられるのか。広げるとしても新興国の小型車など軽以外もカバーできるのか」と語った。

仮にダイハツを軽事業に専念させる場合、トヨタは東南アジア戦略などを練り直す必要もありそうだ。トヨタは新興国でピックアップトラック「ハイラックス」などで強みを持つが、苦戦を強いられていた小型車は、巻き返しに向けて開発や調達、生産準備をダイハツに一本化した経緯がある。

海外だけでなく、日本でダイハツのノウハウを採り入れる動きもあった。国内の小型車生産を担うトヨタ自動車東日本(TMEJ)では、従業員がダイハツに出向し、生産準備期間を縮める取り組みなどを学んでいた。豊田章男会長は当時、「ヤリス」などの開発を担当するコンパクトカーカンパニーに対して「ダイハツに負けている。何が足りないのか」と発破(はっぱ)をかけていたという。

新興国小型車カンパニーを立ち上げる際、寺師茂樹副社長(当時)は「(新興市場を担当する)第2トヨタとダイハツの合弁会社のイメージだ」と語っていた。カンパニー制による棲(す)み分けが明確化したことで、トヨタは収益性が高い中・大型車の開発に専念し、高収益体制を確立できた。ダイハツに任せていた「良品廉価」な小型車づくりを見直す必要に迫られた場合、フルラインアップメーカーとしての地位が揺らぐ可能性もある。

足元ではダイハツの生産再開が最大の課題だ。一連の認証不正で、ダイハツ工業はすべての国内工場の稼働を停止している。国交省は、保安基準適合性の確認結果を月内にも順次、公表していく方針。生産・出荷再開は車種ごとの結果公表後になるが、今は1月中の再開は難しく、2月以降もめどは立っていない。

井出統括部長は「国交省の基準適合性について、すべて検証が終わった段階でないと(出荷再開の)案内はもらえないだろう。順次、アナウンスをもえらえれば再開を検討する」と話した。同社は今回の是正命令を受け、1カ月以内の再発防止策提出が求められているが、井出統括部長は「是正命令への報告が出荷再開の条件になるとは考えていない」とする。

国内全工場の停止により、サプライヤーや販売店への影響は広がっている。サプライヤーについては、補償を開始する方針を示しており、まずは12月に納入予定だった製品について、11月に内示した数量との実績差を1月末に仮払いする。2月以降も稼働を停止する場合、同様の措置を取る考えだ。販売店への補償対応は「(各社が)異なる状況にある」(井出統括部長)ため、個社ベースで対応する。

ただ、サプライヤーからは「工場稼働停止が数カ月に及べば、(経営が)持たない企業も出てくるのではないか」との声も出ている。早期の生産・出荷再開に向けた努力、再発防止を含む事業見直しという両面作戦をグループとして急ぐ必要がある。

(福井 友則、水鳥 友哉)

※日刊自動車新聞2024年(令和6年)1月18日号より