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自動車業界トピックス

社会から注目集める自動車春闘、「大胆な賃上げ」環境は整うが…

電動化などに多額の投資も

2024年春闘で、自動車メーカーの労組は物価上昇と人材確保に向けて過去にない高水準の賃上げを経営側に求める。半導体不足の解消や円安の追い風などもあり、自動車各社の業績は好調だが、電動化対応などに多額の投資が求められるため、固定費の膨張は避けたいところ。労組側の要求に応えつつ、日本事業の競争力を強化するという難しいかじ取りを経営側は迫られそうだ。

春闘ではかつて、就業人口の多い自動車業界が相場の形成役となっていたが、19年に自動車業界の労働組合で構成する自動車労連がベースアップ(ベア)の統一要求を取り止め、この役目を降りた。

産業のすそ野が広い自動車業界の賃上げに再び世間の関心が高まる

日本の自動車産業は、OEMとも呼ばれる自動車メーカーを頂点に、1次、2次などとサプライヤー(部品メーカー)が重層的に連なる垂直統合型の典型だ。必然的に賃金水準もピラミッド構造のため、大手と中小企業とでは賃金格差が開いたままだった。大手と中小が同じベアを実現してもこの格差を解消できないため、自動車総連はベア目標について、各企業の状況に応じて決めるよう労組に委ねている。今春闘でも自動車総連は6年連続でベアの統一要求を見送った。

自動車業界が相場の形成役にならなくなったのはもう一つ理由がある。原材料価格などが変動しても、車両価格を簡単に見直せなかったことだ。特に販売競争が激しい国内市場では、全面改良などを除いて車両価格の変動は小幅にとどまっていた。デフレが長年にわたって続いた日本経済の中では、自動車業界と他産業の業績が大きく乖離(かいり)することはなかったが、物価上昇に合わせて価格を機動的に見直す産業とはズレが生じてきた。

しかし、昨今の原材料やエネルギー、輸送などの大幅なコスト上昇を踏まえ、自動車各社は国内向けの車両価格を相次いで引き上げている。賃上げの原資も手当てできているとも言え、産業のすそ野が広く、就業人口の多い自動車業界の賃上げに再び世間の関心が高まっている。

特に注目されるのが自動車メーカーの賃上げだ。今春闘では、トヨタの労組が昨年を上回る賃金を要求、日産の労組も現在の賃金体系となった05年以降、最も高い月額1万8千円の賃上げを要求する。経営側が高水準の賃上げ要求を受け入れれば、サプライヤーにも広く波及することが見込まれる。

エネルギーなどのオペレーションコストの上昇と人材確保に向けた人件費の上昇に苦しむ中小サプライヤーは少なくない。各社は、部品や原材料の調達コストに関して、人件費の上昇分を含めて引き上げを求め、上位のサプライヤーやOEMと交渉しているものの、難航しているケースも多いという。

経済産業省が1月に公表した中小企業を対象とした大企業との「価格交渉」の調査(10点満点)によると、トヨタ、日産自動車、スズキ、いすゞ自動車、日野自動車の価格交渉・価格転嫁の点数は、平均値が7点未満・4点以上と、上から2番目の水準だ。三菱ふそうトラック・バスは平均値が4点未満・0点以上。ホンダとスバルは価格交渉、価格転嫁ともに平均値が7点以上とトップレベルで、自動車メーカーごとに差がある。

自動車メーカーが仕入れ先の人件費上昇分や、自社の賃上げ分を車両価格に転嫁すれば、自動車業界全体で人材を確保でき、電動化などの将来に向けた投資の原資も確保できるはず。さらに自動車業界以外の産業への波及も見込まれる。インフレが加速する中、大胆な賃上げを実行して日本経済を好転させられるか、自動車春闘の行方が注目される。

(編集委員 野元 政宏)

※日刊自動車新聞2024年(令和6年)2月15日号より