伊藤忠商事と伊藤忠エネクス、企業再生ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(佐藤雅典社長、東京都千代田区)の3社連合が、ビッグモーター(和泉伸二社長、東京都多摩市)を買収する方針を決めた。伊藤忠商事は最大200億円を出資する。3月中に関係企業らで契約書を取り交わし、公表する予定。現在のビッグモーターは、創業家の資産管理会社が株式の100%を保有している。非上場のこの会社を「会社分割」し、旧会社と新会社に分け、3社連合が新会社を買収する方向だ。
企業再編で使われる手法の会社分割は、権利や雇用契約を原則的にそのまま引き継げるメリットがある。今回のケースでも新会社に中古車販売や整備事業、従業員を移すことで、創業家の影響力を完全に切り離す。
旧会社については、新会社に移行しない不動産などを残し、現在のビッグモーターが抱えている訴訟、自動車保険金の不正請求問題など簿外債務の処理を行う。旧会社の運営については創業家も一定の金額を拠出することで、経営責任を果たすとみられる。創業者の兼重宏行前社長にとっては厳しい条件での契約になる見込みだが、現在の従業員らの雇用維持を重視しているという。
3社連合は2023年11月17日に、ビッグモーターの買収を前提に独占交渉権を取得し、資産査定(デューデリジェンス)を進めてきた。伊藤忠側の複数の弁護士事務所などが資産査定に当たってきた。また、経営コンサルティングのデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー(福島和宏社長、東京都千代田区)が、兼重前社長とその弁護士などのチームとの条件交渉を担ってきた。
買収を決断した3社連合が評価したのは、ビッグモーターが持つ全国248カ所の店舗網だ。特に、人口当たりの保有台数が多い北関東を含め、人口が集中する関東に85店舗(全店舗の3割強)を有する。名古屋以西の都市部の店舗も81店舗(同)ある。店舗すべてを引き継ぐかどうかは流動的だが、リピート率などの条件が良い店舗も多く、総合的に収益が見込めると判断したもよう。
また、伊藤忠はビッグモーターの社名の変更を検討している。イメージを刷新できれば、本業の中古車事業を立て直すことができるとみている。
伊藤忠の岡藤正広会長CEOはできるだけ早く「(伊藤忠が)やるかやらないか」の大きな方向性の結論を出す意向を示していた。資金繰りの悪化や人材の流出、店舗網の減少を防ぐのが狙い。伊藤忠はこれまでもヤナセをはじめ、旧雪印乳業グループ、デサント、レリアン、エドウインなど、経営が悪化した企業に段階的に出資し、立て直した経験がある。今回も大型再建の案件になるため、「できるところから」(関係者)再生していく考えだ。
(小山田 研慈)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)2月26日号より