運輸業界の事業環境が一段と厳しさを増している。燃料高や人手不足の影響で、2023年の運送業倒産件数が過去10年の最多を記録した。東京商工リサーチ(河原光雄社長、東京都千代田区)や帝国データバンク(後藤信夫社長、東京都港区)の市場調査で浮き彫りになった。4月以降は、トラックドライバーの残業規制強化に伴い、物流の停滞が見込まれる「2024年問題」への対応が喫緊の課題となる。社会生活を支える運輸業界の困難を解決すべく、効率化に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入拡大や、実効性の高い政府支援の具体化が求められている。
東京商工リサーチの調査「2023年道路貨物運送業の倒産」によると、23年の道路貨物運送業の倒産件数は、14年以降では最多の328件(前年比32.2%増)となった。特に23年12月の倒産件数は前年同月比36.6%増の41件で、13年6月以来、10年6カ月ぶりに月間40件以上になった。
同社が同時期に実施した軽自動車を利用する運送事業者が対象の「2023年軽貨物運送業動向調査」では、23年の倒産件数(49件)と休廃業・解散件数(74件)の合計が過去最多の123件だった。倒産は1989年、休廃業・解散は2000年にそれぞれ統計を開始以来、最多を更新した。
同社は運送業が「人手不足や燃料高騰、運賃の引き上げ難、競争激化などで『利益なき成長』に陥っており、24年はさらに淘汰が加速する可能性が高まっている」と警戒する。
人手不足やエネルギー・原材料価格の高騰が、運輸業界に大きな影響を及ぼしているることは、帝国データバンクの調査「人手不足に対する企業の動向調査(2024年1月)」でも明らかになった。これによると、運輸・倉庫業471社のうち「正社員の人手不足」の回答率が前年同月比3.1㌽増の65.3%に上昇。道路貨物運送業では「人手不足を感じる企業」が7割を超え72.0%になった。
さらに同社の「価格転嫁に関するアンケート」の集計結果では、運輸業94社のうち労務費や原材料、燃料費などのコストが増大した企業が約7割の65社に上った。
これらのように、コスト上昇や人手不足の解決方法が見いだせない中、あと1カ月余りで2024年問題を迎えることになった。企業からは即効性が高く、直接的な支援を求める声が多数上がっている。
帝国データバンクの「2024年問題に対する企業の意識調査」によると、求める支援策は「金銭的支援」(34.0%)、「人材育成・確保支援」(32.3%)、「高速道路料金などの見直し」(29.3%)の回答率がそれぞれ3割前後となり比較的高かった。その一方で、「物流施設の自動化・機械化の推進支援」や、自動運転やロボット技術など「新技術開発支援」を求めるとの回答は2割を下回った。
この結果について、物流倉庫向けソリューションを手掛ける企業のトップは「担い手不足で物流寸断の危機に直面している。日本は欧米とは異なり移民に頼れないので、テクノロジーの活用が危機回避に欠かせない」と警鐘を鳴らす。また、ある運輸・倉庫業者は「2024年問題に関する政府支援は規模が小さすぎて意味がない」と、政策への不満を漏らす。
帝国データバンクも「DXなどの力強い推進や新技術の開発・利活用など、将来を見据えた効率化と業務改善は必要となってくる」とした。そして「政府には個社だけの対応や一部業界だけが負担を被ることにならないような制度や体制づくり、企業の取り組みを継続的に後押しする政策が求められている」と指摘した。
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)3月4日号より