ホンダと日産自動車が自動車の電動化や知能化の分野で提携を検討することで合意した。基礎研究に強く、多くの先進技術を持ちながら、事業に上手く生かせていない日産と、内燃機関では高い技術力を持ちながら、デジタル時代の次世代車技術に出遅れている感のあるホンダ。両社の連携によって、競争力の高い次世代車向け技術は実現できるのか。

  ホンダと日産が協業を検討する分野は①車載用リチウムイオン電池②eアクスル③車載ソフトウエア④商品の相互補完―などだ。自動車メーカー各社が目指している脱炭素社会や交通事故ゼロに向けてキーとなる次世代技術を共通化し、コスト競争力を強化することを狙う。

   日産はモーター、インバーター、減速機を一体化したeアクスルの開発を強化している。とくにシリーズハイブリッドシステム「eパワー」向けの次世代eアクスル、このeアクスルと主要部品を共通化するなどしてコストを大幅に削減したEV向けeアクスルを開発中だ。日産の子会社であるジヤトコも軽自動車や小型車向けと、ピックアップトラック向けのeアクスルの実用化を目指している。

    ホンダは2017年に日立オートモティブシステムズ(現・日立アステモ)と設立した電動車向けモーターを開発・製造する共同出資会社「日立オートモティブ電動機システムズ」(現・日立アステモ電動機システムズ)に、電動車向けモーター事業を移した。その後、日立アステモ電動機は、ホンダが日立アステモへの出資比率を33.4%から40%に引き上げた昨秋に日立アステモの完全子会社となり、今年4月には吸収合併される。ホンダ車向け電動パワートレインの競争力強化を図っている。

  ホンダの三部敏宏社長は「日産の知能化やeアクスルの技術はホンダの技術と親和性が高い。うまくやれば価値を最大化できる」と語る。ジヤトコや日立アステモを巻き込み、両社の電動パワートレイン技術のレベルアップとコスト削減を両立できるかが協業のカギとなる。

  EVの競争力のキーデバイスである車載電池は、日産はもともと内製していた。EV「リーフ」の電池を製造するため、オートモーティブ・エナジー・サプライ(AESC)を07年にNECと設立したが、18年に再生可能エネルギー事業を手がけるエンビジョングループへ売却した。ただ、日産は1割台のAESC株を持ち、関係を維持している。車載電池に精通する技術者も社内に抱え、多くの知見やノウハウを持つ。

  ホンダは車載電池に関し、北米ではLGエナジーソリューション、中国では寧徳時代新能源科技(CATL)など「地産地消」の調達戦略を進めてきた。年内に市場投入する予定の軽貨物EVは、AESCの茨城工場(茨城県茨城町)から調達する電池を搭載する。

  これに加えてホンダは、GSユアサと車載電池を27年に量産する計画だ。工場の年産能力は20㌐㍗時。新工場で生産する競争力の高い電池と製造方法などを研究する合弁会社をGSユアサとすでに設立している。ホンダが日産と提携した場合、日産の車載電池に関する技術を新工場に生かすことや、グローバルなネットワークを持つAESCとの関係強化に寄与する可能性がある。

  また、日産は28年度までに自社開発した全固体電池を搭載したEVを市場投入する計画。年内に横浜工場に全固体工場のパイロットラインを設ける予定だ。ホンダも全固体電池の開発を強化しており、今春から栃木県さくら市にある実証プラントを稼働させる。EVの航続距離を2倍以上に延ばし、充電時間も大幅短縮できるなど、ゲームチェンジャーとされる全固体電池の開発・製造で日産とホンダが組むメリットは大きいと見られる。

高度な自動運転機能をより安価に展開できる可能性も(ホンダの開発車両)

  自動運転分野に関し、ホンダは自動運転「レベル3」(条件付き自動運転)を世界に先駆けて実用化したが、スタートアップや中国系自動車メーカーなどは、より高度な「レベル4」(特定条件下における完全自動運転)を実現しており、トップランナーとは言えない。同社はまた、ゼネラル・モーターズ(GM)の自動運転開発子会社、クルーズとの協業で、26年初頭に東京都内で自動運転タクシーサービスを展開する計画も持つ。しかし、クルーズの自動運転車は昨年10月に米国サンフランシスコで人身事故を起こして事業を停止し、リコール(回収・無償修理)を迫られるなど、技術の完成度には懸念がある。

  日産は自動運転技術では一時、他社に先行していたが、業績悪化や経営の混乱もあって現在は「遅れている」との見方が強い。ただ、横浜市や福島県浪江町などでの実証を通じてデータは蓄積してきた。27年度をめどに自動運転モビリティサービスを日本で事業化する目標を掲げ、横浜市などで実証を加速させていく方針だ。

  日産はまた、車両周囲を素早くかつ正確に認識できる次世代LiDAR(ライダー、レーザースキャナー)を、世界トップクラスの技術を持つルミナーと共同開発中。20年代半ばから搭載を始め、30年までにほぼすべての新車に搭載するなど、自動運転技術で巻き返しを図る戦略を持つ。

ホンダと日産が自動運転分野で協業し、ライダーをはじめとする自動運転システムを共通化できれば、高度な自動運転機能をより安価に展開できる可能性がある。

 ソフトが自動車の価値を決めるSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)は主要な自動車メーカーが開発に取り組む。

  日産は25年以降、無線通信を用いたOTA(オーバー・ジ・エア)技術で運転支援機能やパワートレインの制御、アンドロイドベースの車載インフォテインメントシステム「グーグルオートモーティブ」などを更新するサービスを始める。これらのSDVは内製のため、ソフト開発エンジニアを4000人に増やす計画で、人材育成も急いでいる。ホンダは、SDVの心臓部となる車載OS(基本ソフト)を自社開発するが、開発人材を確保しようと車載ソフト領域に強いSCSKと提携した。

  こうしたSDV領域でホンダと日産が協業すれば、ソフト開発の効率化やコストの削減、開発人材の相互補完などに道が開ける。

  商品の相互補完では、ホンダの軽自動車が日産にとって魅力的に映ると見られる。逆にホンダにとって、「日産の上級モデルが興味をそそられる」との声もある。

  ホンダと日産は今後、協業を検討する領域ごとに技術者を入れてワーキンググループを設置し、具体策の検討に入る。不足している部分を補い合いながら、競争力のある分野で協業してウィン・ウィンの関係を構築できるか注目される。

(編集委員 野元 政宏)

※日刊自動車新聞2024年(令和6年)3月19日号より