物流は国民生活や経済活動に不可欠な社会インフラだが、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」が指摘され、何も対策を講じなければ輸送能力が不足する物流危機が強く懸念されている。また、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)への対応も求められており、国土交通省はこうした課題を解決するため、新たな物流形態として道路空間をフル活用した〝自動物流道路〟の構築に向けて「自動物流道路に関する検討会」を設置した。
2023年10月、社会資本整備審議会道路分科会国土幹線道路部会でまとめられた「高規格道路ネットワークのあり方中間とりまとめ」において、「構造的な物流危機への対応、温室効果ガス排出削減の切り札」に向けて「新たな物流形態として、道路空間をフル活用したクリーンエネルギーによる自動物流道路(オートフロー・ロード)の構築に向けた検討を進めていく必要がある」とされた。このため自動物流道路の実現に向けて目指すべき方向性、必要な機能や技術、課題などについて検討を始めた。
日本の主要都市を結ぶ都市間連絡速度は平均で時速61㌔㍍。ドイツや韓国など、諸外国では概ね時速80㌔㍍程度となっており、諸外国と比較すると十分な連絡速度を確保しているとは言えない。さらに自動車の移動時間のうち約4割が損失している時間となっており、この損失している時間は、年間で61億人時間、労働時間に換算すると約370万人分だという。こうした日本の状況を踏まえ、国交省は50年に世界一、賢く・安全で・持続可能な基盤ネットワークシステム「WISENET」の実現を目指すための政策展開で、新時代の課題解決と価値創造に貢献していく指針を提示。この中に自動物流道路の構築が盛り込まれた。自動物流道路は、道路を自動車の道路から、多様な価値を支える多機能空間へと進化させ、道路空間を活用した人手によらない新たな物流システムとして実現し、物流危機への対応や低炭素化推進のため、諸外国の例も参考に新たな技術によるクリーンな物流システムの実現を図る。
国内貨物のモード別輸送量は、トンベースで自動車が9割超、トンキロベースでは自動車が約5割で内航海運が約4割、鉄道が5%程度だ。運輸部門からの二酸化炭素(CO2)排出量は減少傾向にあり、物流分野も1996年をピークに減少し、2021年度は約8188万㌧だった。自家用トラックから営業用トラックへの転換や環境対応車の開発・普及促進といった取り組みの結果、1990年度比20.1%減となっている。
しかし、物流分野ではさらなるCO2削減が求められており、貨物1件当たりの貨物量が直近の20年で半減する半面、物流の小口・多頻度化の急速な進行で物流件数はほぼ倍増。また、2010年度以降、貨物自動車への積載率は40%以下の低い水準で推移している。電子商取引は市場規模が年々拡大し、全体の8.78%を占めるまでになり、宅配便取扱実績も年々増加。22年度は約50億個となっており、5年間で23.1%増えた。さらに宅配貨物の不在再配達は新型コロナウイルス感染拡大前で全体の15~16%程度発生していた。
トラックドライバーを全産業と比較すると、年間労働時間は約2割長く、年間所得額は約1割低く、有効求人倍率は約2倍となっている。半数以上の企業がドライバー不足を感じており、また、平均年齢が高く、担い手の急速な減少も予測されている。物流の労働力不足の中、労働時間規制などにより輸送能力が不足するなど構造的な物流危機が懸念されている。これまで運べていた荷物のうち、24年度には約14%、30年度には約34%が運べなくなる可能性があるとの指摘もある。
トラック運送事業において営業費用の約4割は運送に係る人件費、約2割が燃料費および車両に係る経費だ。道路貨物輸送のサービス価格は、2010年代後半にバブル期の水準を超えて過去最高(物流コストインフレ)となり、特に宅配便の価格の急騰が顕著だった。近年は燃料価格の上昇とともに、タイヤやバッテリー、オイル交換など自動車関連費用も上昇傾向にある。
輸送モードでトラック輸送が選択される主な理由は「輸送コストの安さ」「到着時間の正確さ」「所要時間の短さ」となっている。港湾・空港・鉄道駅などの交通拠点と高規格幹線道路のアクセスは、ネットワークの不連続や渋滞により時間を要しているケースがあり、シームレスな接続が課題となっている。主要な港湾の約2割が20分以上の所要時間で、鉄道貨物については近年の災害の多発化・激甚化により、毎年のように不通となる期間が発生しており、ネットワークとしての信頼性が低下している。
ただ、トラック輸送においても長時間駐車による平日深夜帯を中心とした駐車マス不足など、大型車駐車エリア全体の混雑が顕在化し、トラックドライバーの時間外労働について年960時間の上限規制が適用され、物流の停滞が懸念される。「2024年問題」に対応するためにも、労働環境の改善などの働き方改革を進め、ドライバーを確保する観点から、日帰りが可能となる中継輸送の普及促進が必要だ。荷主企業の依頼により、長時間の荷待ち、手作業や夜間・早朝の積込み・積降し作業が発生している事態も課題だ。手待ち時間が発生する運行で、手待ち時間は平均1時間45分発生し、約3割は2時間超だという。
物流の効率化に向けた荷主・物流事業者などの関係者の連携・協働を円滑化するための環境整備としては、共同化・自動化・データ化などの前提となるソフト面およびハード面の標準化が必要だ。また、トラックなどへの積載効率向上や自動化機器の導入阻害、着荷主側での管理コストの増加などが生じている。これに対して、複数事業者が幹線輸送についてダブル連結トラックを活用して共同輸送を行うことで輸送を効率化し、異業種の荷物を混載した輸送や複数の物流事業者が連携した中継輸送の取り組みなども始まっている。
こうした物流の課題を受けて、自動物流道路の検討がスタートした。今後、議論していく項目は急速に変化する社会・経済情勢の中で30年後、50年後の物流は、どのような姿を目指していくべきかだ。また、どのような社会課題・物流課題にアプローチするべきか、ターゲットとする課題をどのように設定するか、さらには自動物流道路が拠点配置を含むトータルの物流サービスにどのように影響を与えるかなど、自動物流道路がどのように社会やロジスティクスを変革させていくことができるかも議論が必要だろう。さらには、どこで、どのような輸送を担うのか、備えるべき・備えると良い機能は何かなど、使いやすく、役に立つ自動物流道路に必要なことについても検討し、競争から協調へ、有機的な連携のあり方、参加プレーヤーが強みを生かすかに向けて産・学・官でどのように連携を図っていくかを議論する。今夏には中間とりまとめを行う。
自動物流道路の事例としては、スイスで主要都市を結ぶ地下20~100㍍に直径6㍍の物流専用トンネルを約500㌔㍍建設し、24時間体制の自動物流インフラを計画されている。地下トンネルに自動輸送カートを走行させる物流システム構築するとされており、日本においても技術創造による多機能空間への進化で、自動化、環境など新たな価値を創造する道路空間をフル活用したクリーンエネルギーによる自動物流道路の構築検討を進めていく必要がある。
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)3月25日号より