認証不正で全車の出荷を見合わせるという異常事態に陥ったダイハツ工業が「脱・成長路線」に舵を切る。無理な開発日程や、親会社であるトヨタ自動車を含め「上にモノが言えない」社内風土などが不正の原因とみて、新車の発売延期も辞さず、不正が起こらない体制を築く。ただ、経営改革が軌道に乗るまで商品力が低下する懸念もある。自動車業界の激しい競争をどう生き抜くのかが課題となる。
8日に開いた「今後の事業の方向性」に関する会見では、小型車の開発に対する質問が相次いだ。ダイハツはまず「小型車はトヨタが開発から認証までの責任を持ち、ダイハツがトヨタから委託を受けて車両を開発する」と発表した。しかし、結果として小型車を開発するのはダイハツで、従来との違いがはっきりしないからだ。
ダイハツの星加宏昌副社長は「スモールカーづくりはダイハツの力を生かして、認証はトヨタに見てもらう。(各プロセスで)開発の完了を確認しながら認証のステージに入るかを判断する。リソースが足りているかはトヨタが確認して進める」と説明した。具体的には、開発や認証の各段階で「関所」を設ける。関所には責任者を配置し、開発日程に遅れが出そうな場合、早い段階で周囲に知らせ、後工程にしわ寄せが及ばないよう調整する仕組みを整える。新車の発売日優先で進めていた従来と異なり、場合によっては発売日を遅らせる。
トヨタの新興国向け小型車を担っていたダイハツが不正に手を染めたのは、トヨタの成長戦略に追随するため、開発や認証のリソースが不足している中で、短期間での車両開発を強いられたからだ。「短期開発日程のもと、遅れが発生すると、そのしわ寄せが後工程に発生したが、日程優先で進め、最終プロセスの認証で不正を発生させてしまった」(星加副社長)。
こうした反省から法規や認証業務の体制を強化した。法規認証室の試験関連人員は23年1月から7倍、安全性能を評価する人員は1・5倍にそれぞれ増やした。試験設備なども刷新し、生産性を高めていく。
ただ、世界各国の法令や指針に適合させなければならない認証業務は専門知識や経験が必要で、体制を拡充するのは「シンプルではない」(井上雅宏社長)という。このため、過去に認証業務の経験を持つベテランがトレーナーとなり、若手を育成する取り組みも始めた。
ダイハツは、2022年度まで17年連続で国内の軽シェア首位を堅持してきた。排気量や寸法などの制約が多い軽は、ニーズの変化や競合車の動向などに応じた機動的な新車投入が求められる。しかし、あえて開発日程を従来比で約1・4倍に設定し、開発の遅れにも柔軟に対応する。
リードタイムの長期化はコスト上昇や商品の陳腐化につながりかねない。シェアを急拡大している中国の自動車メーカーは、デジタル技術も駆使して開発期間を大幅に縮め、矢継ぎ早に新型車を投入している。競合のスズキもインドの技術者や設備を活用し、日本に新型車を送り込む考えだ。
星加副社長は「短期開発は諦めずに進めたいが、まずは(関所などの)けじめをつけ、正しい開発をできるようにすることが最優先だ」と話す。成長よりもまず、組織風土の改革や信頼回復に重点を置くダイハツ。競争の激しい自動車業界で、新興市場を攻略するトヨタグループの先兵として戦線に復帰することはできるか。しばらくは雌伏(しふく)の時が続く。
(藤原 稔里)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)4月10日号より