国土交通省が自動車メーカーによる型式指定の不正行為を根本から防止するための検討を始めた。型式指定制度の一層の規制強化に踏み込むよりも「不正行為を起こさない」「起こし得ない」仕組みを目指す。改めて求められるのが、自動車メーカーにおける法令順守体制だ。
型式指定制度をめぐっては、2016年以降の自動車メーカーによる相次ぐ不正を踏まえ、国交省は道路運送車両法の改正などで審査・監査や行政処分、罰則などの厳格化を実施してきた。
国交省が9日に初会合を開いた再発防止の検討会では、審査・監査の強化をはじめとした不正行為の抑止や、早期発見のための手法などが検討テーマに挙がった。具体策は今夏にまとまる予定だ。欧州など海外の取り組み事例を参考にすることも考えられる。
近年、相次ぐ一連の不正行為は、型式指定制度そのものの信頼性の根幹に関わる問題だ。斉藤鉄夫国交相は「わが国の製造業への信頼をも傷つけるものだ」とも語った。ただ、どこまで踏み込んだ対策が必要なのかは、国交省がこれまで行った不正に至る背景の考察なども踏まえて判断するとみられる。
単純に規制を強めると、各種の審査などにかかる自動車メーカーと行政のコスト負担や期間が増える。「日本の自動車メーカーの国際競争力低下にもつながりかねない」と危惧する声もある。
過去の燃費不正問題の背景の一つに「(国による)ルール違反をチェックする仕組みが不十分だった」ことから、国交省は16年6月以降、すべての自動車メーカーに対し、提出データを念入りに確認し、抜き打ちでの試験立ち合いも行っている。
17年6月施行の改正道路運送車両法では、不正な手段で型式指定を取得した自動車などの指定を取り消せるようにし、罰則も強化した。
当時、自動車メーカーの不正問題と改正法案に関する国会質疑などでは、再発防止の効果に対する質問が出た。当時の石井啓一国交相らは型式指定の取り消しについて「極めて大きな経済的な制裁効果を有する」などと答弁した。取引先企業や系列ディーラーの経営にも影響を及ぼすほか「自動車メーカーとしての信頼性を失う大きなリスクを負う」とも指摘した。
この制裁効果が、日野自動車、豊田自動織機、ダイハツ工業と関連企業などで今まさに起きている。改めて問われているのは企業の法令順守体制だ。国交省幹部は「できないのであれば、『今までのやり方ではいけない』となりかねない」と厳しく語る。
(平野 淳)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)4月11日号より