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自動車業界トピックス

大阪・関西万博まで1年、空飛ぶクルマは「視界不良」

「飛べば十分」関係者トーンダウン

建設が進む万博会場とシンボルとなる大屋根(リング)

2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の開幕まで残り1年を切った。半年にわたって開かれる巨大プロジェクトの目玉の一つが、次世代モビリティとされる「空飛ぶクルマ」だ。万博をマイルストーンとする試みには自動車関連企業も関わり、万博の盛り上げに一役買う。ただ、万博自体が工期やコスト、来場意欲の低下といった課題を抱え、空飛ぶクルマの商業運航も当初の想定より後退しそう。残り1年。関係者の懸命な努力は実るか。

スカイドライブ(福澤知浩代表取締役CEO、愛知県豊田市)は3月7日、大阪・関西万博で飛行する「空飛ぶクルマ」の製造を開始したと発表した。静岡県磐田市にあるスズキグループの工場で製造し、将来的には一般販売にも乗り出す方針とする。四輪、二輪、マリン

と幅広いモビリティを手がけるスズキにとって、空飛ぶクルマは新たな挑戦だ。スカイドライブに対し人・モノ・カネを惜しみなく注ぎ込むなど本気度がにじむだけに、商業運航を成功させたいところだ。

万博では、スカイドライブに加え、日本航空が独ボロコプターの機体で、ANAホールディングスが米ジョビー・アビエーションの機体で、丸紅が英バーティカル・エアロスペースの機体で空飛ぶクルマを運航することが決まっている。一方で、商用運航に向けては、技術や制度面で課題も多く、大阪府の担当者は「遊覧飛行のような形に落ち着くのでは」とも漏らす。吉村洋文知事も「飛べば十分だ」と、量産機による商業運航を必ずしも求めない姿勢を示すなど、ゴールは揺れ動く。

会場近隣で23年暮れに実施された有人飛行試験(機体は独ボロコプター製)

「露出拡大により認知度は高まったが、来場意向度が低下している」―。2025年日本国際博覧会協会(万博協会、十倉正和会長)は4日、「機運醸成行動計画」の2版をまとめ、開幕を1年後に控える中で低下した来場意向度について懸念を示した。

大阪府市の万博推進局は23年12月、全国6千人(このうち大阪府民4千人)を対象にアンケートを実施した。大阪・関西万博の認知度(全国ベース)は1年前の調査から6.4㌽上昇し88.6%に達した一方、来場意向度は同7.4㌽下落し33.8%に。大阪府内に限っても同9.4㌽減の36.9%と、厳しい実態が浮き彫りとなった。

来場機運が盛り上がらない背景には、万博をめぐるさまざまな課題や批判もある。例えば開催費。万博協会が23年10月にまとめた最新の会場設営費は最大2350億円と、当初見通しの1250億円からほぼ倍増した。費用は国と大阪府市、経済界で3分の1ずつ負担するが、最終的な担い手は国民だ。とりわけ大阪府外の反応は手厳しく、来場意向度が27.6%にとどまることからもこれは窺える。

それでも、イベントを象徴する大屋根(リング)などに加え、空飛ぶクルマの離着陸ポートも急ピッチで整備が進む。今年2月には、スカイドライブの発着地となる大阪市港区のポート整備事業者が決まり、会場となる夢洲地区(大阪市此花区)との運航に向けた準備が本格的に始まった。空を駆ける未来のモビリティが実現し、万博に華を添えることができるか。残り1年、開幕への準備は正念場に差し掛かる。

(内田 智)

※日刊自動車新聞2024年(令和6年)4月13日号より