知名度、働きがい、待遇―学生が企業を選ぶ基準の一つは給与水準だろう。一時期は「給与より福利厚生を重視する学生が多い」とされたが、連合が昨年1月に公表した学生の意識調査では、約500人の大学生が「賃金の高さ」を企業選択理由の1位に挙げた。10年目に突入した官製春闘では高水準の賃上げが続出。人材確保のため初任給を引き上げた企業も目立った。自動車メーカー各社も負けじと初任給を引き上げ、優秀な人材の確保を狙う。
就活情報サービスを手がけるキャリタスが2025年3月卒の学生(約1千人)に「就職先企業を選ぶ際に重視する点(複数回答可)」を聞いたところ、最も回答が多かったのは「給与・待遇が良い」で、45.2%を占めた。「今よりも豊かな生活を送りたい。奨学金の返済で将来の金銭面が心配」(文系学生)といった回答も寄せられた。
日刊自動車新聞が四輪・二輪車メーカー14社を対象に実施したアンケートで、24年4月入社の新入社員の初任給を引き上げた企業は10社。2社が引き上げを検討しており、2社が未回答だった。初任給の金額を回答した企業で、前年と比較が可能な9社の初任給の平均は前年度比1万8800円高の23万9344円だった。ホンダとヤマハ発動機は25万円を超える。
トヨタ自動車は初任給の引き上げを「未来を担う世代への投資」と説明する。マツダやダイハツ、日野自動車などは「採用競争力の強化」と回答した。
電気・電子系や情報系の人材は、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)やDX(デジタルトランスフォーメーション)流行りの今、他業界からも引っ張りだこだ。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)対応を急ぐ自動車業界でも、初任給を引き上げたり、別会社で好待遇を示したりして対抗している。
24年春闘では、自動車メーカー8社が組合要求に満額で応えた。認証不正が発覚したダイハツ工業の労組は賃上げ要求を見送ったが、会社側は「風土改革に全力で取り組んでいくという組合員の決意に応えたい」として月額2千円の賃上げを回答した。大手自動車メーカーと言えど、若手はもちろん、中堅の転職も今や珍しくなくなった。賃上げは人材の流出防止を図る狙いもある。
もちろん、初任給の引き上げだけで、学生からの応募が増えるわけではない。キャリタスの調査では、トップだった「給与・待遇面」(45.2%)と僅差で「将来性がある」(44.3%)が2位だ。さらに「福利厚生が充実している」(30.1%)、「社会貢献度が高い」(29.1%)、「職場の雰囲気が良い」(29.0%)などの比率も高い。「職場の雰囲気が良ければ、少し辛いことがあっても続けていけそうな気がする」(理系学生)、「やりがいがあって、自分がワクワクする仕事がしたい。成長したい」(文系学生)との声が出る。マツダで人事を担当する竹内都美子執行役員は「賃金・処遇は人への投資の一部。(人材の)教育機会の拡充や風通しの良い職場づくりなどすべてが人への投資と考える」と語る。
働く環境や給与を含め、企業がどこまで投資し、本気で取り組んでいるか、その〝熱意〟を学生に伝えることも、採用拡大のカギになりそうだ。
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)4月18日号より