トヨタ・モビリティ基金(TMF、豊田章男理事長)が事務局を務める「タテシナ会議」の自転車・二輪分科会は、自転車事故の削減に向けた新たな官民連携のあり方を議論するシンポジウムを都内で先月末に開いた。自転車が関係する事故の割合は全体の2割超で推移する。分科会では、デジタル技術も活用して効果のより高い対策や啓発方法などを検討する。2026年までに複数の技術やサービスの実証に入り、30年までに社会実装を目指す。
23日に東京国際交流館(東京都江東区)で開いたシンポジウムには、オンラインと来場を合わせ、70を超える企業・団体から約150人が参加した。基調講演では、国土交通省自転車活用推進本部事務局の種蔵史典・自転車活用推進官と警察庁交通局交通企画課の尾花優一課長補佐が、直近の政策動向を紹介した。
種蔵推進官は、企業や自治体などによる自転車の利活用を推進するための取り組み事例を紹介。尾花補佐は、自転車に関する交通安全教育や法改正の動向を説明した。尾花補佐は「(自転車事故ゼロ実現に向けて)官と民の考えをそれぞれ忌憚(きたん)なく言い合える関係をつくっていきたい」とタテシナ会議への期待を述べた。
自転車・二輪分科会の関係者は、自転車利用者の法令順守を促すための取り組みや期待できる効果などを説明。電柱に通信機器とセンサーなどを組み込んだ「スマートポール」や、スマートフォン(スマホ)を活用し、自転車と自動車の出合い頭事故を防ぐために開発した試作機のデモンストレーションも行った。
スマホに専用アプリを入れるだけで誰でも簡単に利用できる「自転車接近通知機能」は、交差点などで自転車と自動車の接近をそれぞれ音声などで警告して減速を促す。自動車の運転者側には、一時停止の有無など運転結果をレポートする機能も備えており、安全運転に生かしてもらう。昨年2月に東武鉄道「下板橋駅」(東京都豊島区)周辺で実証を済ませた。今後もさまざまな地域で実証して完成度や認知度を高める。今年は5~7月に千葉県市原市での実証を予定する。
「産官学民連携の方向性とその具体策」と題したパネルディスカッションでは、さまざまな業界の視点から、民間の技術やデータを活用して自転車、自動車ユーザーの行動変容を促すことや、受け手にとって納得感のある啓発活動を展開していくために必要な取り組みなどについて議論が交わされた。
今後は、シンポジウムを通じて得られた知見を分科会活動に反映し、官民連携で自転車の事故削減につながる新たな仕組みや技術開発を進めて早期の社会実装を目指す。
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)5月8日号より