政府は、2040年を目標に脱炭素と経済成長の両立を実現する道筋を示す国家戦略づくりに向けた議論を始めた。エネルギーの安定供給を図りつつ、企業などが長期的な視点で投資できる環境を整えるのが狙いだ。原子力発電や再生可能エネルギーといった脱炭素電源の導入拡大や、温室効果ガスの排出量取引の制度設計などに向けて官民で協議を重ね、年末にも戦略案を固める。
岸田文雄首相は、「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で「経済社会全体の大変革と脱炭素への取り組みを一体的に検討し、2040年を見据えたGX国家戦略として統合していく中で、官民が共有する脱炭素への現実的なルートを示すものにしたい」と語った。
昨夏に閣議決定し、今後10年で150兆円規模の官民GX投資を引き出す「GX推進戦略」を発展させた形で、新たな国家戦略「GX2040ビジョン」をまとめる。
論点として「強靭なエネルギー供給確保」「GX産業立地」「GX産業構造」「GX市場創造」を設定した。6月から論点ごとに閣僚メンバーと有識者らで構成する「GX2040リーダーズパネル(仮称)」を立ち上げて議論を進める。議論の内容をGX実行会議に集約する。政府内で、改定期に入った「エネルギー基本計画」「地球温暖化対策計画」とも協調していく。
中東情勢の緊迫化など、地政学リスクや経済安全保障への対応が求められる中、エネルギーの安定供給はGX推進の大前提だ。一方で、再エネや原子力といった脱炭素電源の供給拠点は偏在しており、この比率が4割を超えるのは北海道、九州、関西の3地域にとどまる。
今後、生成AI(人工知能)の普及に伴い、電力を大量に消費するデータセンターの需要や半導体工場の立地が日本でも増加する見通し。「50年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)」も踏まえ、大規模な電源投資が必要となる。脱炭素電源の供給力を強化しなければ、脱炭素化だけでなくデジタルインフラの競争力でも後れをとりかねない。
エネルギーの安定供給については、投資回収の見通しが立てづらい脱炭素電源投資の促進や、大口需要家などを踏まえた送電線整備のあり方などを議論する。ペロブスカイト太陽電池の普及策や、水素・アンモニアなど、新たなエネルギーの供給確保策の検討も進める。GX市場の創造に関しては、今夏から検討を始めるカーボンプライシングの詳細制度設計を含め、脱炭素の価値が評価される市場づくりに取り組んでいく。
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)5月16日号より