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自動車業界トピックス

ホンダ・三部敏宏社長の言葉から 脱エンジンその真意は

着実に進む生産技術の革新

「『今までの延長線上のEVを作っていては駄目だ』という話をしていた」とゼロシリーズ開発の舞台裏を明かす三部社長(1月、米CESで)

電気自動車(EV)とソフトウエアに10兆円もの巨費を投じるホンダ。2年前に発表した投資額を一気に倍増させる勝負に打って出る。〝脱エンジン〟の方針を公表してから3年。足元で市場拡大のペースが鈍るEVだが、それでもホンダが投資のアクセルを踏み込む理由は何か。三部敏宏社長の発言から探る。

 

「30年といってもあと5年ほど。時間はない」

EV販売の成長率が鈍り、ゼネラル・モーターズやフォード・モーター、フォルクスワーゲンなど海外勢はEV関連の開発や投資計画を相次ぎ遅らせている。欧米などの次期環境規制案も現実路線へと少しずつ旋回しつつある。

それでも三部社長は30年前後に向けた中長期的なEVへの流れは不変とみる。例えば、米環境保護庁(EPA)が3月に最終案を発表した27~32年モデルを対象とした次期環境規制。最終案では23年の素案と比べて前半(27~30年)の削減ペースが緩和され、規制対応への猶予が生まれた。

ただ、最終年の二酸化炭素(CO)排出量基準値は85㌘/㍄と素案がほぼ踏襲された。現行規制に対して5割の削減が求められる。三部社長は「結局、30年ごろにはどの自動車会社も(米国では)EVを半分くらいにせざるを得ない」と読む。

もちろん、欧米の規制が今後さらに緩和される可能性はある。ただ、その緩和分に乗じてEVシフトを遅らせると「結局、50年にはカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)にはならなくなる」(三部社長)。

 

0(ゼロ)シリーズのフラッグシップ「SALOON」と三部社長(1月、米CESで)

「EV事業で十分回収できると判断した」

EVをやらなければいけない事情と、事業として成立させられるかは別問題だ。ホンダが〝脱エンジン〟を発表し、業界を驚かせてから3年。この間、電池メーカーとの合弁工場への投資やEVを軸にしたバリューチェーンの形成、IT企業との協業など相次いで大型案件を決めてきたが、依然として一部では目標の実現性に懐疑的な見方も残る。特にEV事業の収益化は各社が悪戦苦闘する。

ホンダは16日の発表で「EVで稼ぐ会社」に向けた事業モデルを具体化した。カギとなるのは車載電池を中心とした垂直統合型のサプライチェーン(供給網)と生産技術の革新だ。

具体的には、カナダなどでの電池の内製化で北米向けの電池のコストを2割削減するほか、型締め力6千㌧級の大型アルミ一体鋳造や次世代のモジュール(複合部品)方式で生産コストも3割以上、削減する。これらの目標値は、いずれも28年にカナダで稼働するEV専用工場が対象だが、開発成果は時期を問わず他工場にも展開し、EV事業の収益性を高める。

巨額投資の原資は二輪事業とハイブリッド車(HV)販売でひねり出す。21~25年度で12兆円の営業キャッシュ・フロー(CF)の創出を目指し、26~30年度にはさらにEV販売の拡大で営業CFを積み増す。EV事業単体で30年に営業利益率5%を目指す。

ただ、ベンチマークの対象でもあるテスラや比亜迪(BYD)は、垂直統合のサプライチェーンをすでに形成し「ギガキャスト」などの生産技術やSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)も実用化済みだ。品質の高さやアフターサービスではホンダに分があるが、値下げ競争に巻き込まれないためにも、ホンダ独自の価値をEVでどのように打ち出せるかが勝負どころになる。

 

「エネルギーが進化することを前提に車を用意しなければいけない」

日本のような火力発電に依存する国の場合、生産から廃棄までライフサイクルを通じたCOの排出はEVよりもHVの方が少ない。だからこそ地域によって最適なパワートレインを提供する必要がある。これは日本自動車工業会などが精力的に発信し、昨年5月のG7(先進7カ国)広島サミットの共同声明にも盛り込まれた考え方だ。

しかし、エネルギーのグリーン化は刻々と進む。三部社長がこうした発言をするのは「多様な選択肢」という言葉をはき違え、進化の手を緩めれば、自社はもちろん、日本の産業競争力が低下する危機感があるためだ。

もともとエンジン開発畑の三部社長。ホンダに入社したのも学生時代に乗った「バラードスポーツCR―X」がきっかけだが、今は「乗用車などの小型モビリティはEVが最適な方法であることに変わりはない」と強調する。「平時より有事が好き」と言ってはばからない三部社長。電動車シフトの最前線に躍り出ようと勝負をかける。

(水鳥 友哉)

※日刊自動車新聞2024年(令和6年)5月31日号より