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自動車業界トピックス

〈増やせクルマ好き!次世代の育て方〉トヨタ・日産・ホンダ・マツダ・スバル、耐久レースでメーカーの垣根を越え「共挑」

レース会場で集まり直面する共通課題について話し合う5社の役員ら

トヨタ自動車と日産自動車、ホンダ、マツダ、スバルの5社が、耐久レースへの参戦を通じてカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)関連技術を磨いている。普段はライバル関係にある5社だが、レース場ではメーカーの垣根を越えてカーボンニュートラル実現を目指して〝共〟に〝挑〟む「共挑」の姿勢を示す。

5社は5月25日、富士スピードウェイ(静岡県小山町)で開催した「スーパー耐久シリーズ富士24時間レース」で5社のレース部門トップが合同会見を開き、各社のレース参戦の狙いや成果などを語った。

スーパー耐久シリーズは、市販車をベースとしたマシンで、プロからアマチュアまで幅広い選手が出場するレース。その中で、5社が参戦するのはメーカーの開発車両が出場する「ST―Q」クラスだ。2021年に新設された同クラスにトヨタは開発中の水素エンジン

ST―Qは各社が脱炭素技術を競う走る実験場となっている

車で参戦。水素エンジン車は走行中にほぼ二酸化炭素(CO)を排出しないのが特徴だが、安全性の確保や航続距離の短さなどの課題もあり、市販化には至っていない。そんな水素エンジン車がレースに出場するのは世界初の試みであり、同クラスが注目されるきっかけとなった。

21年第6戦にはマツダがバイオ燃料、22年にはトヨタとスバルが同じカーボンニュートラル燃料を用いて参戦。その後、日産とホンダも加わり、24年は参加車両が10車種まで拡大した。耐久レースは「走る実験室」として各社が脱炭素技術を持ち寄り、競う場へと変化していった。

ST―Qクラス参戦の自動車メーカー5社は、レース会場で定期的に集まり「S耐ワイガヤクラブ」を開催している。トヨタガズーレーシングカンパニーの高橋智也プレジデントは「最初は特にテーマを決めず『せっかくなので集まろうよ』とスタートした。今では開発から人材育成など幅広いテーマで話している」という。また、ホンダ・レーシング(HRC)レース運営室の桒田哲宏室長は「自動車産業とレースをどう持続性を持たせ発展させていくか、考える機会になる」と話す。日産モータースポーツ&カスタマイズの石川裕造常務執行役員は「例えば新しいレースフォーマットについて5社で相談できるかもしれない」と期待を寄せる。

各社で共通しているのがカーボンニュートラル燃料を使用する車両で参戦していることだ。特にトヨタとスバル、マツダは同じカーボンニュートラル燃料をそれぞれ異なるエンジンで使用して特性などを検証している。こうしたレースで得たデータを燃料メーカーにフィードバックし、燃料性の改善やコスト低減に向けた提言を行っているという。

レースの場で技術を磨くのは、エンジニア育成の狙いもある。スバル最高技術責任者(CTO)の藤貫哲郎専務執行役員は「エンジニアは負けず嫌い。競争の中で技術の進歩がある」と指摘する。マツダの前田育男エグゼクティブフェローも「毎戦、エンジニアは瞬間的に判断をしないといけない。量産開発ではなかなかできないスキームだ」と強調する。

スバルの藤貫専務執行役員は「内燃機関がこれから乗り越えないといけない壁はものすごく高い」と危機感をあらわにする。レースという実験室はメーカーが協力するのではなく競い合う場であるが「(技術課題解決の)ソリューションをライバルから明かしてもらえなくても、出口があるというだけで勇気づけられる」(同)と参戦の意義を語る。

21年に水素エンジン車でのレース参戦を決断し、その後も自らドライバーとして開発車両のハンドルを握り続けてきたトヨタの豊田章男会長は「カーボンニュートラルの世界でも引け目を持たないエンジンはできないことはない。そこにチャレンジしていくことに是非とも応援してもらいたい」と話す。

※日刊自動車新聞2024年(令和6年)6月1日号より