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よくわかる自動車業界

型式指定制度、審査の厳格化や罰則強化は必至 問われる対策の実効性

トヨタ自動車やホンダなど自動車メーカー5社で新たな認証不正が発覚した。調査を終えていないメーカーもあり、不正事案はさらに増える可能性もある。国土交通省は再発防止策を検討しており、審査の厳格化や罰則の強化が想定される。これまでにも燃費や完成検査、さらに認証試験と、自動車メーカーの技術部門による不正が相次いだ。その悪質性はともかく、少なくともコンプライアンス(法令順守)意識の低さは疑いようがない。日本の自動車メーカーの不正は、相互認証協定を結ぶ各国政府の不信感も招きかねない。再発防止の実効性をどう高めていくかが課題だ。

今回の不正発覚が大きな問題となっているのは、業界トップのトヨタ本体での不正が発覚したことと、ホンダで初めて不正が発覚したためだ。

 2000年の三菱自動車によるリコール(回収・無償修理)隠し以降も、国内メーカーによる不正は断続的に発覚している。16年の三菱自の燃費不正、17年以降、日産自動車やスバル、スズキなどの完成検査不正、そして22年以降、日野自動車、ダイハツ工業、トヨタ車向けエンジンを受託生産する豊田自動織機が型式指定での不正などだ。

「(規定よりも)ワーストの条件で試験することが法令に反する行為という認識がなかった」(ホンダの三部敏宏社長)─。今回の点検で発覚した5社の不正について、各社は一部を除き「組織的な隠ぺいや悪意のある不正ではなかった」と口をそろえる。

典型的なのがホンダの騒音試験だ。試験車両の重量設定に関し、法規よりも厳しい条件下で試験を繰り返すようマニュアルにも記載されていた。試験の後、設計変更などで車重が増えると再試験する手間がかかるためだ。その後、法令の改正で再試験が不要になり、試験方法はマニュアルから削除された。

トヨタは「レクサスRX」で目標とするエンジン出力にするため、コンピューター制御を調整した。ホンダは型式指定を取得した同一エンジンの出力値を「ばらつきの範囲内」として書き換えた。マツダはエンジンの出力試験で制御ソフトを書き換えた。

技術部門を中心に自動車メーカーの不正が後を絶たないのはなぜか。認証不正の場合、申請プロセスが複雑で高度な知識や経験が必要なことや、コンプライアンス意識の低さが挙げられよう。特に認証試験は「現場の勝手な解釈」(マツダ)で、規定と異なる手法をとりがちという。例えば、マツダが前面衝突試験でエアバッグをタイマーで起爆させたのは「乗員保護性能の正確なデータを取るため」(毛籠勝弘マツダ社長)という。

「どうすれば目標とする性能を実現できるか」の知識を持つ技術者は、新車開発などでさまざまな改善を施す。認証試験でもこの延長線上で「大は小を兼ねる」的な発想で、規定と異なるやり方をとりがちだ。ホンダの三部社長は「(不正していた技術者は)『性能が出ているからいいだろう』となる。順法の方が下にあることは想定していなかった」と話す。

各社は「悪意のあるものではない」「新車投入スケジュールを見直せないなどのプレッシャーが理由ではない」と強調したが、不正の背景に「再試験を省きたい」という思いがあったのは事実。自動車メーカー各社は試験設備の充実やコンプライアンス教育の徹底を図る方針だ。

ダイハツ工業による認証不正の発覚後、複雑で規定が分かりにくい型式指定制度の見直しを求める声もあった。ただ「制度上の問題でなく、ルールを逸脱したことを正す」(ホンダの三部社長)ことが議論の大前提になる。

(編集委員・野元 政宏)

※日刊自動車新聞2024年(令和6年)6月5日号より