損害保険業界の構造的課題について議論している金融庁の「有識者会議」の会合で、保険をめぐる不祥事の背景に、自動車ディーラーが本業の車両販売で収益を上げにくくなっているとの指摘がメンバーから出ている。車販で得られる利益が少ないため、保険販売を増やして手数料を稼ぐなどするディーラーがあるため、結果として損保側に無理が生じるケースがあるとの見方を示した。ただ、本業以外での稼ぐ力を高めることは、ディーラー各社の経営基盤の安定にもつながるのも事実。損保業界の健全化に向け、本業とどのようにバランスさせていくかも、今後の論点のひとつになりそうだ。
7日の有識者会議の会合で、8人のメンバーの中の一人、大村由紀子弁護士(三浦法律事務所)が、「せっかくの機会なのでこれまで会議で出てこなかったことについて問題提起したい」と切り出した。
大村氏は「損保が(大規模な自動車販売店側に)無理を強いられているケースがある背景には、ディーラーが本業の自動車販売できちんとした収益を得られない状況になっていることも一因と聞いている」とした。「新車1台を売って得られる利益があまりにも少ないため、保険の方に乗り出して高額な保険料を求めたり、無理な保険販売をしたりしている側面がある」とも指摘した。
その上で「(経済産業省など)他省庁の管轄になると思うが、こういうディーラーの本業に関わる部分も解決していかないと、損保市場全体の問題について、根本的な解決にはならないと思う」とし、経済・産業界全体で今後も点検していく必要があると訴えた。
新車1台当たりのディーラーの利益(マージン)は、メーカーや車種などによってさまざまだが、現在は価格の1~2割が一般的のようだ。関係者によると、「1台当たりマージンはそれほど減ってはいない」というものの、かつてメーカーから出ていた「『奨励金』が減ったり、なくなったりしていることが大きい」という。これは販売店側がノルマを達成した場合に出す「ボーナス」のようなもの。数値目標の設定自体をやめたメーカーもあり、それでディーラー各社の総合的な「車販利益」が減少している。
これに、新車需要が長らく減速傾向にあることも重なる。国内の新車販売台数のピークは約780万台(1990年度)で、現在はその5割超の約432万台(2023年度)だ。この差を埋めようと、ディーラー各社は固定費(営業費)を、新車販売以外の事業で稼いだ粗利益でカバーできるように力を入れてきた。保険販売やサービス、車検などに加え、中古車販売、金融(残価設定型クレジット、リースなど)でも稼ぐ「バリューチェーン利益」の確保が、浸透している。今回の損保をめぐる不祥事では、それらのひずみが出たとの見方があるとも言えそうだ。
損保側にも課題はあった。損保各社は、関係が深いモーター代理店の全国組織を持っている。国内市場が縮小していく中で、整備や車販による収入が減ることをカバーするために、保険販売の強化を組織運営の目標に掲げるなどしていた。整備事業者などでもディーラーと同じような構図になっているが、損保側も後押ししていた。
足元ではこうした保険販売量重視の施策を見直す動きも出ている。三井住友海上火災保険のアドバンスクラブ(AC、前田匡会長)では、自動車保険の販売実績を地域の支部ごとに表彰する「ACカップ」を23年度で廃止した。今後も整備技術の研さんなど本来の目的に重きを置く、組織運営とするところが増えそうだ。
ただ、マージンや奨励金、ディーラーの利益構造については原則的には民間の経済行為の話で、国の制度的にどうしたらいいか議論が難しい面もある。あるディーラーの関係者は「保険の販売は保険業法や金融庁の『保険会社向けの総合的監督指針』、損害保険協会のガイドラインなどに細かいルールが書いてある」とし、「みな資格を取ってやっており、結局、法律・ルールに沿った販売に徹するという原点に返るしかないのでは」としている。
(編集委員・小山田 研慈)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)6月11日号より