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よくわかる自動車業界

高騰する新車価格、好調な需要に冷や水も 〝価値相応〟頭悩ます自動車メーカー

新車価格はどれぐらい上がったのか。総務省や経済産業省の統計を調べると、20年前と比べ、軽乗用車で6割、小型乗用車で3割近く上昇したことがわかった。原材料価格や労務費などの上昇に加え、安全装備の充実や電動車シフトが価格を押し上げている。足元で下落する要因は見当たらない。手をこまねいていれば新車需要が中古車に流れる可能性もあり、メーカーは今後の値付けに頭を悩ませそうだ。

■軽自動車で6割 小型車で3割上昇

総務省の小売価格統計調査によると、2024年1~5月の車両価格平均は軽が162万円、小型車(いわゆる5ナンバー車)が233万円、普通車が352万円だった。20年前と比べると、軽が61万円(60.4%)、小型車が47万円(25.3%)それぞれ高い。

原材料や労務費の上昇もあるが、先進運転支援システム(ADAS)の装着義務付けも理由のひとつだ。新型車では、21年11月に衝突被害軽減ブレーキ、22年5月にはバックカメラなど車両後退時確認装置の搭載が義務化された。自動点灯ライトやイベント・データ・レコーダ(EDR)など、細かい装置を含めると義務付けはさらに増える。

電動化も価格を押し上げている。特に近年は燃料価格の高止まりでハイブリッド車(HV)が人気だ。23年度の国内販売(乗用車)に占めるHV比率は初めて5割を突破した。電動車は電池やモーター、インバーターなどのコストがかさむ。メーカー各社のコスト削減で利益率はガソリン車と同等だが、価格自体はガソリン車より割高なことは変わりない。車種にもよるが、経産省によるとHVはガソリン車より40万円から80万円ほど高いという。

同省の生産動態統計によると、乗用車の国内生産は19年以降、4年連続で減少しているが、生産金額は22年に増加に転じた。電動化が一因とみられる。部品の生産単価では、トランスミッションや電子式ブレーキ制御装置、舵取り装置が値上がりしていることが分かった。

■進む上級シフト 販売は好調だが

軽はホンダ「N―BOX(エヌボックス)」が上級シフトに先べんをつけ、都市部のファーストカーとして買われるようになった。スズキの鈴木俊宏社長は「軽は初代『アルト』が代表するように、必要な装備に絞り、求めやすい価格であるべき」としつつ「一方で運転のしやすさなどからも選ばれている。『ファーストカーとして家族みんなで使いたい』というニーズも増えてきた」と話す。

「ミニバンのスタート機種」として売り出したスズキのスペーシア

スズキは、23年11月に発売した新型「スペーシア」で後部座席にオットマンをつけ「ミニバンのスタート機種」(鈴木社長)として売り出した。1割ほど値上げしたが、販売は好調で、5月の車名別新車販売で首位に躍り出た。

小型車以上では、トヨタ自動車が23年発売の「プリウス」の「トヨタセーフティセンス(TSS)」「車両接近告知」など5つの機能をトヨタ車で初採用した。TSSと連動した「アンビエントライト」を後方からの車両接近時に点灯させるなど、安全性を高めた。エントリーモデルで32万円上げたが、23年度の車名別販売台数では7位(前年度は29位)となった。

ただ、いつまでも消費者が財布の紐(ひも)を緩めてくれるとは限らない。厚生労働省によると、一般労働者の1カ月当たりの平均賃金(2023年)は31万8300円。この20年間で5.5%しか上がっていない。過去にささやかれた〝クルマ離れ〟の二の舞にならないよう、価値に見合った値決めや不断のコストダウンも求められそうだ。

(藤原 稔里)

※日刊自動車新聞2024年(令和6年)6月13日号より