〝気づき”を与えられる場に
「トータルカーライフサービス」(TCS)が原点 重要性再認識
■ 時代の波に乗れるよう多角的に支援
4千会員を超える整備専業者を組織するAIRオートクラブ。技術の進化への対応はもちろん、自動車ディーラーや中古車販売店、用品量販店などが整備分野を強化する中で専業者がどう特徴を打ち出していくかが大きな課題となっている。
その中で菱沼新会長は、整備工場の原点ともいえる「クルマに関することをすべてサポートするトータルカーライフサービス(TCS)を会員に再認識してもらうこと」が重要であり、そのために会員向けにさまざまなアシストを行うことで「AIRオートクラブの良さを会員に伝えていきたい」と抱負を語る。
◆トラブルのとき身近な存在へ
―5月に会長に就任されました。業界を取り巻く環境が大きく変わってきている中でトップとして重点を置いているところは
「TCS(トータルカーライフサービス)を展開することで、AIRオートクラブの良さを会員に伝えていきたい。それが自分の使命と考えています。私たちの先代の時代は当たり前のことでしたが、整備工場で車に関わるすべてのサポートを行うというTCSの原点を会員に再認識していただきたいということです。車検や板金の専門店ができ、お客様の選択肢が増えています。かつてはお客様から整備専業者は保険も含めて『私の車のことはすべてそちらに任せた』と言っていただいていましたが、そうした意識が薄くなっているのではないでしょうか」
「AIRオートクラブとしてはそこを再認識して、お客様のクルマのことはすべてお守りしましょうということです。保険から入って、それが本業にもつながっていくはずです。目的ごとに異なる会社のサービスを利用するのはお客様にとってメリットがあるかもしれませんが、事故やトラブルが起きた時に身近でどこに頼ればいいかということもあります」
―整備業界のビジネスモデルが変わり、専門分野に分かれたことでクルマの面倒を見てくれている相手の“顔”が見えにくくなっているのかもしれません。『車のかかりつけ医』として任せてもらおうという考えは、整備工場がその役割を果たす意義はあると思います。その方が面倒なくていいという声も聞きます
「数十年前には車のことを整備工場に任せるお客様が多くいましたが、今は減少しています。ただ『時代は繰り返す』というように、取り組みによっては整備工場がカーライフのすべてのサービスを行う時代がまた訪れるのではないでしょうか。そのために私たちもユーザーニーズに合わせて勉強して知識を深めていくことが必要となります」
―技術の進化だけでなく、残価クレジットなど勉強すべきことが増えています。現場も含めてそこの負担は大変です
「これからさらに増えるでしょう。自動車業界は『100年に1度の変革期』と言われています。今までのやり方では通用しないのではないかという不安もあります。そこでAIRオートクラブとしてはアシストをしっかりしていきたいと思っています。多角的なサポートをすることで、整備工場が時代の流れに乗っていけるようにして、AIRオートクラブに入ってよかったという団体にしていきたいということです。今期からはエーミング講習も始めています」
―会員を増やしていく計画は
「会員数は9月末で4370です。会員を増やそうというより、AIRオートクラブの内容が良ければ自然に増えていくと考えています。増やすことが目的ではありません。収保などの枠があり、そういったものを下げてまで増やすということではありません」
◆保険拡大の伸びしろはある
―自動車保険は整備専業者以外でも強化しているところが数多くあります。その中で伸ばしていく余地はあるのでしょうか。AIRオートクラブの中には保険塾もあり、参加して成果が上がったという声も聞きますが、どういったことがポイントになるのでしょうか
「AIRオートクラブの付保率は20%強で、25%はいっていません。私が自動車保険のことを教えてもらった保険強化委員会の先輩方は、整備工場であれば普通にやっていれば25%はとれる。頑張れば50%まで増え、極めれば75%まで行けるとおっしゃっていました。頑張れば50%まで行くということは業績もあがるし、会員にとって“伸びしろ”があるということです。会員の中には学びの場である保険塾に参加して業績がぐんと上がった会員もいます。そういう意味では方向性は合っていると思います」
「今まで保険を売るという意識が少なかったし、言われることもありませんでした。クルマを売っていれば自然に保険はついてきます。それが25%くらいです。そこで一生懸命に保険をやればもっと増えます。そこのところに気づいていなかったのです。これからはトータルカーライフサービスの中で保険をやらなければお客様をフォローできません。それがここにきてわかったということです」
「私の会社の場合ですが、お客様に適切にアドバイスをするために、他社で保険に入っている方にも保険証券をいただき内容を教えていただいています。そこで『何かあったらここに電話してください』という緊急連絡カードというのをお渡しします。そうしたら車検のリピーター率が増えました。お客様に聞いてみたら、『車検を入庫しないと緊急の場合にフォローしてくれなくなってしまう』とか、『トータルカーライフで守ってくれる』会社と評価してくれたりします。そういうことが本業に通じると思います」
―自動車保険は新車ディーラー、中古車販売店、用品量販店などが力を入れています。入り口としては車両の販売時が最も提案しやすいと思いますが、整備業の場合、その点はどう考えていますか
「クルマ販売が中心のお店は、そこから入った方がいい。そうでない会員さんもたくさんいますが、それは車検です。車検は期日がわかります。そのときに確実にお客様とタッチできます。そこで自社の強み、TCSできちんとサポートしますと提案していく。整備や板金をやっているからこそ安心感もあり、提案できることもあります」
■大病院と町医者のような分業を
◆好事例を学び教える流れに
―自動車保険を強化したいが、限られた人材でそこまで手が回っていないという整備工場も少なくありません
「保険に詳しい人材を育成することは大切です。ただ、AIRオートクラブの会員でも、少人数のところで付保率が高いところもたくさんあります。TCSができているのです。そういう会社の好取り組みを学んで、また教える。そういうことができる流れになってきました」
―その中で保険塾の果たす役割は大きいのではないでしょうか
「保険塾の参加会員は当初、25会員でスタートして10月に1千会員を突破しました。全会員の4分の1にあたる数字です。参加者からもほとんど喜んでいただいており、これからどれだけ参加会員を伸ばしていけるかが課題です」
―技術や市場環境の変化が激しく、専業工場の“出番”がなくなってしまうのではないか、という漠然とした不安が専業者にあるように感じます
「病院が大病院と町医者で分業しているように、以前から言われていることですが、われわれもライバルというより、いかに提携できるかということになると思います。OBD車検もそうですが、車検の位置づけはより大きくなっており、エーミングなどの新技術への対応も求められます。そういう意味では技術の進歩につれ、かえって整備工場の出番が増える可能性もあると思います。もう一つ、都市部を中心にカーシェアリングが増えてきており、その車両の点検をどうしていくか。時代の流れを追い、常にアンテナを張り巡らせておくことで、整備工場が生き残る道がみつかるのではないでしょうか」
―ワランティ事業は提供開始から5年ほど経っています
「ワランティは、われわれ会員が損保ジャパンさんに要望を出して作られたものです。取り扱い会員は最近2500会員を超えましたが、実際に販売しているのは1千会員程度にとどまっています。自動車販売を主要事業とするところはワランティの必要性を感じているのでしょうが、それ以外の工場にはまだ重要性が十分に伝わっていないように感じます。ただ、将来を考えると必要になっていくだろうし、ここにきて盛り上がってきており、保険と同じように良さを広めていきたいと思っています」
◆次世代委員会で若手経営者育成
―整備工場全体の話になりますが、新技術への対応と整備士や後継者不足といった問題が深刻化しつつあります。そこをどう見ていますか
「AIRオートクラブにとっても重要な問題です。会長と副会長の諮問委員会として『保険強化』『本業強化』『次世代サポート』の三つの委員会を設け問題点や将来のことを考えています。後継者や若手経営者の育成については次世代サポート委員会で力を入れており、若手社長を講師に、2、3代目社長の悩みを聞く会などを開いています。社員には話せないが社長同士なら話せる悩みもあり、そういう意味ではAIRオートクラブの会員同士は話しやすいと思います」
―こうしたことも含めてAIRオートクラブの良さ、組織としてのメリットとは
「AIRオートクラブは、やる気があれば勉強になることが見つかる会です。分会、支部、ブロックと集まりには段階があり、一番小さな集まりの分会で見えているのはごく一部だと知ってほしい。分会から一歩進み、支部やブロックで開催している保険塾や勉強会に参加し、仲間を作ることで活性化します。気づきを与えられる場として、良さをもっと知ってほしいと思います。保険塾も5年前にできて、ここまできました。やる気があれば変えることができるのではないでしょうか。保険塾でいえば、入った会員の増収率が4・7%で、会員平均が2・5%だから2倍近い。エクセレントショップという保険塾に入って大きく伸ばしところは、平均で増収率26%に達しています」
「AIRオートクラブはうまく利用してもらえばいいということです。私たちは気づきを与えていきます。アシストについては経営、保険販売、技術、事業拡大、環境の分野でそれぞれ取り組み、技術的サポートも充実させています。『整備技術ホットライン』では会員の質問に答えられる専任スタッフを東京と大阪に5人配置し、会員により詳しい情報を発信できます。ただ知らない会員もまだいますので、きちんと伝えていきたいと考えています」
※日刊自動車新聞2018年(平成30年)11月21日号より