新型コロナウイルス感染症の拡大は、1日から解禁となった企業の新卒採用活動にも大きな影響を及ぼしている。政府が感染拡大を防止する狙いで、多くの人が集まるイベント開催の必要性の再考などを呼び掛けたことから、合同企業説明会や求人企業による新卒採用イベントなどが相次いで中止・延期などに追い込まれた。採用スケジュールを先延ばしにしたくないのは各社共通の本音で、代替策としてインターネットを活用したウェブ説明会に切り替える企業が増えている。一方で、学生との対面の面接が行えない場合には、新卒採用を休止する方針を決めた企業もある。
オートバックスセブンは、動画視聴サイトを活用して会社説明動画を配信。1対1の個別説明会を実施している。個別面談形式の説明会では、同社社員と学生の双方がマスクを着用するなど可能な限り接触機会を減らした対応をとることを公表している。
ブロードリーフは、都内にある本社で学生向けに行う予定だったイベントを中止としたため、これまで地方での採用活動で用いていたウェブ説明会の対象エリアを全国に拡大した。ウェブ形式にしたことで、「説明会参加へのハードルが下がり、(ウェブ説明会の)参観人数が増えた。学生からの反応も良い」(採用担当者)と想定外の結果を生んでいることに驚きを隠せない。
大手損害保険各社も、合同あるいは個社の企業説明会をウェブ配信で対応している。加えて、面接が始まる6月までに新型コロナウイルスの感染拡大が収束しないケースを想定して、面接の中止や延期、ウェブを使用しての実施など幅広い対応策を検討している。会社説明会はライブ配信を行い、学生からの質問を受け付けて、その様子を自社ホームページにアーカイブして接点機会を増やす施策を実施する。
中古車流通業界では、トヨタユーゼックが「テレビ面談などの対応を行うほか、地方の学生向けに(TAAが構える)全国各地の中古車オークション(AA)会場を利用した面談も検討中」という。仮に実現すれば、中古車AAの設備を採用活動で活用した初めての事例となる見込みだ。
カーチスホールディングスは、視聴することでエントリーできるウェブ説明会を2年ぶりに開催する。社内風景などを動画配信するほか、チャットを用いて現役社員に質問できる場を設ける予定だ。ガリバーを展開するイドムは、「個別面談を行う際、面談またはウェブ面談のどちらかを学生が選択できるように対応し、面談の場合は人事担当者と学生にアルコール消毒、マスク着用を条件とする」ことを決めた。
新型コロナウイルスの影響は、少子高齢化が進む地方の企業にとって深刻な問題だ。国内最多の感染者が確認された(15日時点)北海道では、鈴木直道知事による緊急事態宣言を受けて、札幌市内で開かれる予定だった大規模な合同企業説明会は中止となった。
札幌トヨペットの採用担当者は、「合同企業説明会が中止となって採用対象となる母集団の形成に苦労している。単独の企業説明会は例年より2週間遅れでスタートして1開催当たりの応募人数を減らしている」と対策を語る。また、営業職の選考は人柄や人間性を重視するため、ウェブによる面接は行わない。今後の状況しだいだが、対面による面接を行えなくなった場合は採用活動を休止する方針だ。
東北地区のあるトヨタ系ディーラーは、「整備職は企業説明会が終わっているが、営業職は合同説明会が中止となり痛手。個別に開催して対応するしかない」と採用スケジュールの見直しを急いでいる。近年は学生に有利な「売り手市場」が続いてきただけに、「大幅な採用活動のスケジュール変更で営業職の人材を確保できるのかは非常に心配」と不安を語る採用担当者も少なくない。
広島県のあるディーラーの採用担当者は、「会社説明会でも出席人数を絞り、人同士の間隔を開けるなど工夫している。ウェブを用いた面接も検討したが、現実的ではないので取り入れないつもりだ。新型コロナウイルスの影響があっても来春の採用予定数は変更ない。予定通りに採用できるか未知数だ」と語る。
別のディーラー採用担当者からは「面接ではマスク着用を認めるつもりだが、学生の表情が見えない場合、考えがわかりにくく厳しい。とはいえ、マスクを外せともいえない」と、マスク着用での面談の難しさを指摘する声もある。
想定外の出来事で戸惑いを隠せない企業と学生。新型コロナウイルスの影響が長期化すれば、国内景気の押し下げ要因にもつながって企業の業績にも響いてくる可能性もある。とはいえ、企業にとって採用は持続的成長に欠かすことのできないもの。ウェブを通じた説明会や面談などの成果や問題点なども踏まえて、今後の新卒採用活動のあり方を見直す契機にもなりそうだ。
※日刊自動車新聞2020年(令和2年)3月17日号より