ホンダが自動運転「レベル3」(限定領域での条件付自動運転車)を上級モデル「レジェンド」に設定して5日に発売する。レベル3の型式指定が制度化されてから量産モデルで実用化するのは世界初。米国や中国と比べ自動運転の開発で遅れている日本の自動車メーカーがレベル3の商品化では一歩先行した。ただ、レジェンドのレベル3は使用できる領域が限定的で価格も普及レベルには遠い。海外の異業種やスタートアップ企業は「レベル4」(限定領域での自動運転車)以上の自動運転技術の開発を加速しており、開発競争は激化。日系自動車メーカーがこの分野で存在感を打ち出せるのかは不透明だ。
自動運転技術の開発では米国と中国が先行していると言われてきた。実際、自動運転開発の中心地とされる米カリフォルニア州での公道試験ではGMクルーズやウェイモが数百万㌔㍍規模で実施。中国のベンチャーであるポニー・エーアイなども公道実験のデータ蓄積を急速に進めており、走行距離で日本勢は水をあけられている。また、中国のオートXが完全無人のロボタクシーの営業を今年に入って深圳市で開始。強みのAI技術などを活用し、米中では実用化を着々と進める。
ただ、自動運転の技術開発はこれらのサービスカーとオーナーカーで分けて考える必要がある。サービスカーは、比較的コストをかけやすく、遠隔監視システムなどで安全性を確保しやすいためだ。これに対してオーナーカーは、車両単体での安全性確保やコストやデザインの制限がある。
オーナーカーの領域ではアウディが2017年にレベル3をうたった「A8」を投入したものの、法整備の遅れで実際は機能を利用できない。一方、日本ではSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)などで官民一体となり、法整備と商品化を推進。その結果、今回レベル3の商品化にこぎつけた。そういった意味でホンダが実現したレベル3はオーナーカーの運転自動化に向けた大きな一歩となる。
とはいえ、普及レベルに至るまでの道のりは長い。システムが作動する最高速度は時速50㌔㍍で逆光や悪天候など周辺環境もシビアにシステムの作動条件に関わる。作動中は事故の責任を問われない点やアイズオフが許される点はメリットと言えるが、ベース車と比べて実質400万円高となるコスト課題もある。
ホンダもその点は踏まえており、今回生産台数は100台限定とした。ホンダは03年に衝突被害軽減ブレーキを市販化したが、「普及するまで15年はかかった」(杉本洋一本田技術研究所エグゼクティブチーフエンジニア)。まずはレベル3を世に出し、社会や顧客の反応を集約しながら今後の技術開発やコスト低減、商品投入につなげる考えだ。
レベル3の商品化で先行した日本だが、AIなどの技術力のほか、5Gの普及遅れやトンネルの多さなどのインフラ面での問題もある。激化する開発競争に日本が勝ち抜くには今回のレベル3投入を契機に改めて課題を一つずつつぶしていく必要がある。
※日刊自動車新聞2021年(令和3年)3月5日号より