自動運転の開発競争が激化している。ホンダは量産モデルとしては世界初となる自動運転「レベル3」(限定領域での条件付き自動運転車)の機能を上級モデル「レジェンド」に設定して実用化したが、法整備や社会的受容性を含めて「自動運転」の本格的な普及に向けたハードルは依然として高い。海外に目を向けるとグーグルの親会社アルファベットの傘下にあるウェイモをはじめとする異業種が先進技術領域で自動車メーカーに先行する。開発スピードをアップするため、自動車メーカー同士や、スタートアップを巻き込んだ連携が加速している。自動運転技術を軸にした合従連衡が進む。
コネクテッドカーや自動運転、電動化などの先進技術によって100年に1度と言われる大変革期を迎えている自動車業界。中でも自動運転技術の開発競争は、異業種の参入もあって激しさを増している。高性能センサーや人工知能(AI)を活用する自動運転技術には、多額の研究開発投資が必要で、これを自動車メーカーが単独で調達するには負担が大き過ぎる。このため、自動車メーカー同士の提携による投資の軽減や外部の知見を積極的に採り入れる動きが広がる。
積極的に仲間づくりを進めるトヨタ自動車は4月、子会社ウーブン・プラネット・ホールディングスを通じて米配車サービスを手がけるリフトの自動運転部門を5億5千万㌦(約600億円)での買収を決めた。自動運転関連の技術とメカニックを確保するのが目的で、サービスカーとしての自動運転を早期に実用化することを狙う。
トヨタは、ライドシェア大手のウーバー・テクノロジーズと自動運転を活用したライドシェアサービスの開発で提携し、ウーバーに出資していた。しかし、ウーバーは自動運転開発子会社ATGをスタートアップのオーロラ・イノベーションに売却。このため、トヨタはオーロラと協業関係にあり、今後、数年以内にライドシェア用の自動運転車の量産を目指す。
サービスカー分野の自動運転では、ウェイモの存在感が際立っている。自動運転の公道での走行距離は世界トップクラスで、技術的には最も進んでいるとみられている。そのウェイモは2019年6月には、日産自動車・ルノーと無人運転のモビリティサービスに関する独占契約を締結した。日本とフランスで配送分野での事業化を模索する。ボルボ・カー・グループもウェイモとの提携を通じて配車やトラック輸送など、さまざまなビジネスシーンで活用できる自動運転車の実現を目指す。
一方、オーナーカー分野の自動運転では、ホンダが自動運転レベル3の商品化にこぎつけたが、自動車各社の技術力だけで見ればほぼ横並びとみられる。先進運転支援システムから自動運転へ、技術を高度化する思想は自動車メーカーによって異なる。それが、よりレベルの高い自動運転を実用化するスピードに反映されている。
ただ、自動車各社が自動運転に対して最も重視するのは安全性の確保だ。安全性に大きく影響する自動運転の「判断」の役割を担うAIを手がける企業を頼りにしている。AI半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)は、トヨタやフォルクスワーゲン(VW)、ダイムラーなどと提携、自動運転領域の事業を着実に拡大している。
また、フォード・モーターと自動運転などの領域で提携することで合意したVWは、自動運転のスタートアップであるアルゴAIに出資し、自動運転の早期実用化に向けて他社との提携を積極的に拡大している。
自動運転技術には、既存の自動車メーカーだけでなく、米国のIT大手や、中国などの新興企業も多数参入、多数のプレーヤーが入り乱れてしのぎを削る。有望な技術を持つ提携先を探すことができるかが、自動車メーカーの競争力を左右する。
=おわり=
(この連載は野元政宏、福井友則、水鳥友哉、長谷部博史が担当しました)
※日刊自動車新聞2021年(令和3年)5月8日号より