自動車の環境規制が燃費からライフサイクルアセスメント(LCA)へと広がろうとする中で、自動車産業が対応を迫られている。これまでは走行時の二酸化炭素(CO2)排出を抑えれば規制を達成できたが、LCAベースになると生産地の電源構成にも排出量が左右され、走行時にCO2を出さない電気自動車(EV)といえども〝究極のエコカー〟ではなくなる。法制化はまだ先だが、LCA視点で生産地を移したり、地域のCO2排出を最小化する車両開発が自動車メーカー各社には求められつつある。
欧州連合(EU)の欧州委員会は、2024年7月からEVなどに使うバッテリーについてLCAベースでCO2排出量を申告するよう義務付け、27年には排出上限を定める。車両全体の規制も検討中だ。中国でも25年に自動車のLCA規制導入を検討している。
EVは走行時にCO2を排出しないが、LCA視点では製造時にガソリン車を上回るCO2を排出する。国際エネルギー機関(IEA)によると、車両製造とエネルギー(ガソリンと電気)の製造、走行時のCO2総排出量は、使用期間10年で見るとEVとハイブリッド車(HV)でほぼ同等、プラグインハイブリッド車(PHV)が最も低い。水素で走る燃料電池車(FCV)も走行中にCO2は出さないものの、再生可能エネルギー由来などの「グリーン水素」の活用がLCAを左右する。
ただ、地域別で見ていくと、発電時のCO2排出量が少ない欧州においてはLCA視点でもEVが有利となる。一方、日本では火力発電比率が7割を超え、現状ではEVの優位性を打ち出しにくい。ただ、政府は再エネ割合を30年には36~38%まで引き上げる方針で、バッテリーの容量が小さい車種であればHVやPHVよりCO2が少なくなる可能性が高まる。ただ、発電時のCO2排出量は地域によってばらつきがあり、LCA視点で最適なパワートレインや車種も異なる。グローバルで生産・販売を行う日本の自動車メーカーは、全方位戦略を採らざる得ない状況にある。
日本自動車工業会(自工会)は、自動車軸に国内のエネルギー課題をまとめて10月に公表する方針だ。LCA視点で国内生産の競争力を維持するためには、エネルギー計画と一体となった議論が不可欠だ。
※日刊自動車新聞2021年(令和3年)9月21日号より