日本自動車整備振興会連合会(日整連、竹林武一会長)と日本自動車整備商工組合連合会(整商連)が、整備工場のBCP(事業継続計画)対策の支援を強化している。6月にBCPマニュアルの提供を始め、11月から専用保険の販売(適用は2022年1月から)を開始した。近年、頻発する豪雨による水害や今後発生が懸念される南海トラフ巨大地震などに備えてもらうのが狙い。マニュアルは一般に公開しており、自動車関連の幅広い分野でも役立ててもらいたい考えだ。
「自然災害が起きても、整備事業者を直接的に支援できる制度の構築は難しい」。こうした現状から、日整連では災害発生の前後で整備工場に必要なBCPマニュアルの作成に19年秋から着手した。実際に被災した東北や岡山、長野、千葉の整備振興会や事業者にヒアリングし、「実際の声を反映して作成した」のが今回のマニュアルとなる。
作成を請け負ったSOMPOリスクマネジメント(桜井淳一社長、東京都新宿区)の槇本純夫シニアコンサルタントは「日常化する災害」をマニュアル作成の背景に挙げる。整備業界では過去に被災し「廃業に至った」などビジネスへの影響が甚大なケースもある。BCP対策を講じて被害を軽減し、「事業継続の気持ちを諦めないでほしい」とマニュアルに込めた思いを話す。
マニュアルは①役立つ②簡単③事業者の特性―を念頭に作成した。約9万事業場ある整備工場は数人程度の小規模事業者が多く、BCPの担当者の配置やBCP策定に時間を掛けるのが難しい。そのため、テンプレートを自社の状況に合わせて書き換えるなど策定方法を工夫した。マニュアルは災害前後の対応をまとめた「青本」と事業継続への対応をまとめた「赤本」で構成する。赤本には保険請求の方法や補助金に関する情報をまとめ、直接的な支援が難しい事業継続のための金銭面の取り組みをサポートする。
金銭面では各整備振興会の会員事業者向けに損害保険ジャパンなどと事業活動総合保険「キープtheモータース」を開発した。マニュアル同様に従来保険に比べて、入りやすさを軸に設計した。保険料は売上高を基に算出するもので、設備や什器などの損害や休業による損失を1千万円限度に補償する。整備工場では火災保険などに入るケースが多いものの、保険料を算出するための設備などの評価に時間が掛かっていた。そのため、概算する中小企業が多く、新たな設備を賄うだけの保険金の取得が難しかった。今回の保険は保険料算出が容易で日整連向けにすることで保険料も通常より3割安く設定している。
保険には被災時の早期復旧をサポートする「被災設備修復サービス」も付帯する。特殊な機械であるほどに新品の到着には時間を要する。同サービスは水害や火災による多少の汚れに対応し、損害保険ジャパン提携のメンテナンス会社が24時間365日の体制で、連絡から24時間以内に修理に出向く。「設備が止まる時間が長くなるほど利益の損失につながる。使用可能な機器は早期に修復し、事業再開につなげてもらいたい」(損害保険ジャパン)としている。
日整連では今後、整備工場がマニュアルを作成する上で窓口となる指導員を、来年をめどに各整備振興会や整備商工組合に1人以上配置する考えだ。さらに日整連と整商連としてのBCPも策定し、災害時に国や各振興会・商工組合などとのやり取りをスムーズに行うための対策にも乗り出す。
※日刊自動車新聞2021年(令和3年)12月14日号より